カテゴリ:かっぱらっぱかっぱらった( 9 )

河童について(あとがきみたいなもの)

いきなり河童はやってきましたよ。
思いついた瞬間に水没した銀座・人魚・核魚雷・月に向かってらっぱでぷう、などの骨格が出来上がっていました。
っても、ノベルゲームにするにはちとアレだしと思いブログ連載となりましたですよ。

最初はもっと切なくて悲しい話だと勘違いしておりましたが、実は違いました。
河童はぜんぜん孤独じゃないし、衣食住保障されて、日がな一日中、本を読んでいられるし、物資はかっぱらいほうだいだし、近寄れないけど頭が悪くて可愛いガールフレンドが居るし、オタクのユートピアみたいな物ですね(笑)

ちなみに原作の詩はこうですな。

かっぱ

かっぱかっぱらった
かっぱらっぱかっぱらった
とってちってた

かっぱなっぱかった
かっぱなっぱいっぱいかった
かってきってくった

作:谷川俊太郎

……次は菜っ葉買う話を書かねばなりませんかっ!
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by sakananovel | 2006-10-12 00:45 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【8】 かっぱらっぱかっぱらう

 一夜明けた。
 俺は魔法使いさんに一宿一飯の礼を言って東京タワーから降りた。
 辺りの景色が一変していた。
 老朽化していたビルが津波に耐えられなかったらしい。
 見渡す限りビルが折れたりして平たくなっていた。

 銀座に戻って見たら、本屋ビルが無かった。

 三階の部分だけが水の上に岩礁のように突き出ていて、四階から上が無くなっていた。
 お、俺の蔵書が……。
 読みかけのSFが……。
 茫然と立っていたら潮が満ちてきて残った部分を水没させた。
 寝るところも無くなった……。

 ふらふらと神田へ泳いで行った。
 書泉も三省堂も崩れていた。
 ああ、俺はこれからどこで本を調達すれば良いのだ……。

 お茶の水に一軒生き残ったビルがあった。
 楽器屋だった。
 トド夫がのそのそと出てくる所だった。
「やあ、河童くんお互い酷い目にあったねえ」
「トド夫はまたギター?」
「そうとも、大波でまた無くしてしまってねえ。でもここにはもう生きてるギターが無いねえ。これから川崎とか横浜まで行くつもりだよ」
 まったく大変だよ、と、大変そうでない口調でトド夫は言った。
 楽器屋のビルに銀色のラッパがディスプレイされていた。
 引っこ抜いてみるとさびも無いしマウスピースもついているちゃんとしたラッパだった。
「河童くんはラッパをふけるのかい?」
「一曲だけ」
「そうかい、じゃあ、ギターを見つけてきたらセッションをしようではないか」
「ああ、いいね……」
 トド夫は手を振って横浜方面へ泳いで行った。
 俺はラッパをかっぱらって銀座へ帰った。

 潮が引いて頭を出した本屋ビルの残骸の上で、俺はラッパを持ってぼんやりと佇んでいた。
「たいへんだよー、いっぱい仲間死んだよー」
 結がばちゃばちゃと音を立てて泳いでやってきた。
 五千人いた人魚が今は三百人ぐらいしか生き残っていないらしい。
 みんな見物にいって原子の炎に焼かれたそうだ。
 建国二日目で人魚帝国は崩壊した。
 残ったのは秋葉人魚村だ。
 馬鹿馬鹿しい限りだ。

 俺はラッパに息を吹き込んだ。
 ぷうとラッパが鳴った。
 息が金属管の中で音楽に変わった。

 色を変え始めた夜空に向け高らかにラッパが鳴る。
 俺の吹けるただ一曲を吹いた。
 やけくそのように俺はラッパを吹いた。

 吹きながら人魚姫の死を悼んだ。
 ムラサメの中の人間の死を悼んだ。
 陽気な楽曲に鎮魂を込めて俺はラッパを吹いた。

 悲しくて馬鹿馬鹿しくてもうどうでも良くて。
 ラッパを吹いた。
 河童なんかラッパを吹くぐらいしか出来ない。
 ただひたすらに肺の中の空気を音楽に変え続けた。

 結がきゃあきゃあ言って手を叩いて喜んだ。
 ラッパの音は高く高く昇っていった。
 かけ始めた月が静かにラッパの音に耳を傾けていた。

 とてちてた~。

(了)
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by sakananovel | 2006-10-11 22:22 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【7】 爆発の夜

「発射は明日じゃなかったのかよっ!」
「姫さん、きまぐれだからなー」
「結はなんで留守番?」
「いやあ、もしかしたらムラサメに昔の友だち居るかもーと思ったらおっくうで。気がすすまんと姫さまに言ったら掃除してろーと言われた」
 ああ、結も俺と同じなんだな。

 俺はムラサメが居る方向を見た。
 今から原潜に追いつく事が出来るだろうか。
 そして、センサーに落書きは可能だろうか。

 もの凄い量の光の束が水平線の向こうに発生した。

 ……無理みたいだ。

「うお、破裂した」
 真昼のような光が辺りを覆った。
 ビルの看板がジュウジュウ音をたてて変色していった。
 俺と結の居る場所は原子の光からちょうど影になっていたが、眩しくて目を開けていられなかった。
 空気が熱くなったので、急いで海に飛び込んだ。
「あれー? なんか威力がでかくねえ?」
 人魚姫は十キロほど距離を置いて見物しろと魔法使いさんに言っていた。
 ……。
 ここからムラサメは十キロどころの距離では無いはずなのだが……。
 水平線に超巨大なキノコ雲がむくむくとふくれあがりはじめた。
 ひゅうと風が吹き始めた。
 空がごろごろと唸りを上げ、雲が狂った馬のように走っていた。
 思ったよりメガトン数が大きかったのか……。
 それとも……。
 いや、まさか……。
「なあ、核魚雷に積んであったのは、原爆? 水爆?」
「えっ、どうちがうの?」
「主に威力かな。水爆は原爆の何百倍……」
「げげげ原爆だって言ってたよ、人魚姫は」
 水平線に壁が出来た。
 水で出来た高い壁。
 津波だ。
「科学者はいたのかい?」
「居たよ! 電気の専門家と化学の専門家が居た」
「かがく……。ばけがく?」
「ばけがく、ゆうきばけがく」
 有機化学……。
「核爆弾に必要な学問は、物理学だ……」
「あら!」
 水の壁は見上げるばかりになって、俺たちに押し寄せてきた。

 水が竜巻みたいな勢いで俺たちを飲み込み、めちゃくちゃにシェイクした。
 体がバラバラになりそうな水圧にぐるんぐるん振り回されて目も開けられない。
 どこかにぶつかって死ぬか、何かに当たって体がちぎれるかするのだろうと思った。
 上も下も解らず、暴力的な水流に、ただ流された。
 こういうときは力んではいけない。俺は胎児のように体を丸めた。
 背中には防水リュックがあり、その下には甲羅がある。
 水の中で呼吸も出来るから人間よりは随分生存率が高い。
 結も近くを流されているのだろうが、水が濁って一寸先も見えないし、目にゴミが入って痛いので、じっと目を閉じ流されるままにしていた。

 しばらくすると水の圧力が消えた。
 浮上してみると、海上は大波がぐわんぐわん蠢いていた。
 空はかき曇り、稲妻が走っていた。
「そろそろ死の灰が降りますよー! あぶないから上がってきなさいー!」
 声の方に向くと、ひんまがった東京タワーがあって、展望台に魔法使いさんが立っていた。
 なんと、水道橋から芝公園まで流されたのか!
 結がちょっと先の海面でうつぶせになって気絶していた。
 人魚も河童も頑丈だなあと俺は思った。

 展望台にあがる縄ばしごを結を背負って上がった。
 結は粘液でぬらぬらしていて背負いにくい。
 俺が大汗をかいているというのに、奴はふにゃふにゃと寝言を言っていた。

 縄ばしごの終わりで魔法使いさんが待っていた。
「いやあ、人魚姫はやることが違いますね。原爆のつもりで水爆を打ち込むとは、普通の人にはできません」
 普通の人は核魚雷持ってないしな。
「やっぱり水爆?」
「実験用のものだったのでしょう。アメリカ海軍も馬鹿な兵器を開発するものです」
 展望台の窓にぽつりぽつりと真っ黒な雨があたりはじめた。
「死の灰は24時間でだいたい降り終わるそうです。今日はここに泊まっていきなさい」
 魔法使いさんの住居は雑多な電子機器で埋め尽くされていた。魔法使いというよりも、ハッカーだなあと俺は思った。
「ムラサメは消滅してますね。ただ、人魚姫さんたちもただではすんで居ないでしょう」
 液晶ディスプレイに、衛星からの画像が映っていた。
 何もない暗い海面が平たく映っていた。
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by sakananovel | 2006-10-10 20:46 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【6】 マジックのマジック

 本屋ビルに帰って考えて朝を迎えた。
 窓からビルの間の水平線を見る。
 あの向こうで海上都市ムラサメはこちらへ進行しているのだなと思った。

 なんとかせねばなるまい。
 人類と人魚の未来の為に。

 本屋ビルの蔵書をひっくり返し、神田に行って専門書をひっくり返した。
 核魚雷の本なぞは発見出来なかったが、魚雷の大体の構造は理解できた。

 最近の魚雷はセンサーで海中を探りながら動く。
 であるなら、そのセンサーを狂わせれば良い。
 そこでマジックだ。
 魚雷の目であるセンサーにマジックで落書きをする。
 センサーが狂って核魚雷はムラサメに直撃しない。
 魚雷は外れるがムラサメ側は人魚が核武装しているのを知る。
 そのあとは人魚とムラサメで交渉を重ねればいい。
 完璧だ!
 河童の裏工作による平和が訪れるのだ!

 俺は三省堂ビルに潜り込み新品のゼブラのマジックを一本調達した。

 神田まで来たのでついでに東京ドームへ偵察に行った。
 物陰からドームをのぞくと、大きな鯨の様な物体がゆっくりとバックで東京ドームへ入り込む所だった。
 原子力潜水艦だ!
 目つきの鋭い人魚の歩哨が三又の槍をかざして辺りを見回っていた。
 原子力潜水艦に核魚雷を装填し、ムラサメに打ち込むつもりか。
 考えてみれば当たり前の事だった。
 核魚雷だけをドームから打ち込もうとしても、航続距離が足らないだろう。
 何とかして、ドームに忍び込み、原潜に装填するまえの核魚雷のセンサーに悪戯書きをしなければ。
 人魚姫が核攻撃は二日後と言っていた。
 装填されるのは攻撃当日だろう。
 では、明日の夜忍び込んで悪戯書きをしよう。
 俺はそう決めて、銀座に帰って寝た。

 朝、波の音に雨音が混じって俺は目を覚ました。
 悪天候は好都合だ。
 空を見ると雲が飛ぶように走っていた。
 SFを読みながら鰺を囓り、夜を待つ。

「おーい、河童ー」
 下を見ると結だった。
「姫さんから差し入れー」
 そう言うと、いつものように尻尾ではたいて俺の居る場所へ包みを投げ入れた。
「なんだこれ」
 開いてみると、紅白のまんじゅうが入っていた。
「開戦まんじゅうだそうだ」
 アホかい。
「結ー。魚雷はまだあるのかい?」
「んー。軍事機密だから黙ってろだとさ。でもあるよ」
 結に軍事機密を守らせるのは至難の業だな。
「今どこにあるんだ?」
「? ドームの裏手のビルだよ。なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、何となく」
「核魚雷は姫様が大切にしてるから、悪戯すると八つ裂きにされんぞ」
 ああ、そうだろうな。
 だが、俺はあえて核魚雷に悪戯書きをしにいかねばならないのだ。
 世界の平和の為に!

 夜。
 あいにく雨は上がって空は晴れわたった。
 十七夜の月の明かりの中、真っ暗な水中を水道橋に向かって泳ぐ。
 水の中は暗いが、透明度が高いので何とか見える。
 夜行性の魚を追い散らしながら、夜光虫の群の中、俺は進む。

 防水リュックの中にはマジック。
 世界を救うため、俺は力強く泳ぐ。
 水流が体の脇を通り過ぎていく。
 体に力が満ちあふれる。
 世界の平和は俺と俺の持つマジックに掛かっている。
 俺は正しい。誰よりも正義で、世界一立派な河童だ。
 全能感が体を支配し、腕を上げ水をかき足をばたつかせて水深五メートルの水中をジェットのように飛ぶ。
 核魚雷のセンサーに人知れず落書きをし、そして帰って寝る。
 明日の攻撃で色々なもんちゃくが起こるだろうが、俺はしらん。
 俺は誰にも知られずに善行を施し、知らん顔をして、読みかけのSFを読むのだ。
 格好いい、俺。
 いかすぜ、俺。

 東京ドームに近づいた。
 浮上して辺りを見まわす。
 ライトアップされているが、歩哨は居ないようだ。
 寝てしまったのか?

 水中に潜り、慎重にゆっくりと泳ぐ。
 歩道橋にそって潜水し、裏手のビルに廻る。
 裏手のビルはぽっかりとシャッターを開けていた。

 中は空で、灯りが煌々とついていて、結がせっせとモップがけをしていた。
「あれー、なんだお前、こんな時間に?」
「……核魚雷は?」
「え、ああ、なんだか月が綺麗だからちょうど良いって、発射しに行っちゃったよ」
 なんだとーっ!!
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by sakananovel | 2006-10-09 23:20 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【5】 人魚宴会

 結に誘導されてドームの隣のビルへ移動した。
「なに険しい顔をしてるのですか、河童くん」
「え、いやべつに」
「核の炎で焼き尽くされる人間に同情してるのですか、河童くんはやさしいなあ」
「そんなことはないよ」
 魔法使いさんがにこやかに笑った。
 そんあことはないとは言ったが、そんなことはあった。
 移動中ずっと海上都市ムラサメの事を考えていた。

 人魚姫が宣戦布告と言っていたが、これは本当の戦争なんだと思った。
 海上都市ムラサメがこちらに移動しているのは、水没した秋葉原の電装部品などの資源目的なんだろう。
 世界に冠たる電脳都市であった秋葉原にはCPUや電装部品などが眠っている。
 人間の生き残りが居たら、当然の事ながらサルベージを狙うだろう。
 だが、今の秋葉原は人魚の街だ。
 人魚も秋葉原の電装部品をサルベージして文化的な生活を送っているのだ。
 両者の激突は必然と言っていい。
 だが、だからといって、交渉も無しに相手に核攻撃というのは……。

 東京ドームの隣のビルの三階に宴会場がこしらえてあった。
 体育館ぐらいの広さのホールにテーブルが並び、湯気を立てた御馳走が並ぶ。
 床から五十センチぐらいの高さまで綺麗な海水が引かれてあり、循環して流れていた。
 きらびやかなシャンデリアが辺りを照らし出し、青い化繊が壁を彩っていた。
 人魚達がそこでばちゃばちゃと笑いさざめき、宴会が始まった。

 並んでいるのは魚料理ばかりだった。
 シチュー。揚げ物。お寿司なんかもあった。
 こんな手のこんだ料理は何年ぶりだろうか。
 トド夫がビールをがぶがぶ飲んでいた。

 人魚姫に意見するべきだと思った。
 人間だって、この地球に生き残った仲間なのだから仲良くするべきなんだ!
 協力して明るい未来を開くんだ!
 俺はそう思って人魚姫に近づいて行った。

「姫様、核攻撃はおやめ下さい」
 人魚姫の眉がぴくりと動いた。
「人間だって、この地球に生き残った仲間なのだから仲良くするべきです!」
 俺が言う前に、若いショートカット人魚が人魚姫の前に立って声を上げていた。
 偉い! 人魚の中にも物の解った人が……。
「このものを処刑せよ」
 人魚姫の冷たい一言でショートカット人魚は宴会場の外に引っぱって行かれた。
 宴会場がシーンとした。
「失礼致しました、どうぞご歓談をお続けくださいましね」
 人魚姫はにっこりと笑った。

 俺はその場で硬直していた。
 い、言わなくてよかったー。

「いやあ、核爆弾は浪漫ですねー。攻撃はいつごろなんですか?」
 俺を肘で押しのけて、魔法使いさんがじゃぶじゃぶと水をかき分け人魚姫の前に出た。
「おほほ、軍事機密ですわよ。でも三日後かしら」
「いいですねー! 僕も見物にいこうかなあ」
「半径五キロぐらいは熱線で危ないですわよ、十キロほど距離を開けてごらんになってくださいね」
 俺は溜息をついて、ほがらかに核の浪漫を語る魔法使いさんと人魚姫の近くから離れた。

 トド夫は大酒のみだ。ビールをがぶがぶ飲んでいた。
 結がやってきて俺に一升瓶を手渡した。
「飲め」
「俺は酒呑まないけど」
 結は驚いた顔で一升瓶のラベルを指さした。
「探してきたんだぞ」
 ご丁寧に”黄桜”だった。
「馬鹿者、河童だからといって大酒のみとは限らないぞ」
 ちなみに俺は酒を飲むと頭が痛くなるので呑まない。
「呑まないならくださいな」
 トド夫がかっぱらって黄桜を一気のみした。
 結が口の下に梅干しを作ってむくれていた。
「呑んで酔っぱらったら私と仲良く生殖してくれると思ったのに」
「そのあと食べるんだろ」
「うん」
「生殖したいのか、俺を食べたいのか、どっちだ」
「……四分六で喰いたい」
 四分六かよっ!!
「魚でも食ってろ」
 ちきしょーと言って結は黄桜をトド夫から取り上げてあおった。
 そして酔っぱらって暴れた。

(つづく)
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by sakananovel | 2006-10-08 22:53 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【4】-人魚帝国建国記念大会


 どーんと後楽園ホールが鳴動して人魚帝国記念大会は始まった。
 空には満月。海面に突き出た後楽園ドームの中は薄いブルーの化繊布が縦横に張り巡らされライトアップされ空に向けてサーチライト大型スピーカーから軍歌っぽい人魚帝国の国家がガナリガナリと鳴り響く。
 バックネットの前に高いステージが設置されていて人魚姫はアイドル歌手のごとくスタンダップ。球場内を埋め尽くすは約五千人の獰猛な人魚、ナゼカはしらないけど、女ばっかり。
 来賓はアルプススタンドに三人。

 俺。
 トド夫。
 魔法使い。

 なんだかなあというかんじ。
 眩しいライトに包まれていると一度ここへ野球を見に来た災害前の想い出を蘇らせたりして、前の座席の背もたれに肘をついてぼんやり。

 結がびょんびょん下の方で跳ねていたので、行ってみるとお盆に飲み物とホットドックを乗せて階段を跳ね上がっていた。
「御馳走……」
「ちがうっ! これは前菜というかー、あれだよ、姫の演説とかセレモニーの間の食べ物飲み物だよ。本当の御馳走は大会の最後にあるんだっ」
「そうか、一瞬がっかりしたがもちなおした」
「というか、お前が奴らに運べ。私は跳ねるのに疲れた」
「結は昔人間だった可変型人魚だろ。足出せばいいじゃん」
「出し方忘れた。と言うよりも尻尾を足に変えたら素っ裸だぜ。恥ずかしいじゃんよ」
 ちなみに人魚形態の結はポッシェット以外の物を身にまとっていない。
「人前で生殖穴広げておいて、全裸がはずかしい?」
「あれとこれとは、あのその、違う」
 結は真っ赤になった。
 お、なんか可愛い。
「今度人間形態でこの前と同じ事してみてくれ、慰められてやる気になるかもしれん」
 結は真っ赤になって、お盆を階段に置き、胸を抱いて丸くなった。
「え、エロイ事をいうんじゃない、貴様ーっ!」
 想像して悶絶したらしい。
 オモロイな。
 ふーっと怒気をはらんだ声が混ざり始めたので、慌ててお盆を取った。
「じゃ、これは運んでおく」
「今度エロイ事言ったらお客でも喰ってやる!」
 俺は三人前の料理の乗ったお盆を持ってアルプススタンドを駆け上がった。

「相変わらず仲が良いねえ」
 トド夫がふもっふと笑った。
「そんなことはない」
「河童と人魚の恋とはメルヘンだねえ」
 五年前もから事態はとてつもなくメルヘンだぞ。
「ギターはあったのかい?」
 トド夫はニヤリと笑って袋からギターを出した。
 多少埃を被っているが、弦は錆びてないし、良い感じの保存状態だった。
 ただ、トド夫の巨体からすると、比率的にウクレレっぽく見えた。
「石丸楽器店の倉庫にあったんだよ。結構色々な物が水を被らないであったよ」
「今度聞かせてくれよ」
「いいとも、来週にでも来たまえ」
 トド夫にホットドックと飲み物を渡した。

 魔法使いはセンタースタンドの真ん中に居た。
 真っ黒なマントに黒ずくめでバリッと固めて、いかにも魔法使いでございという感じだ。
「やあ、ごぶさたしてるね、河童くん」
「元気そうだね。魔法使いさん」
 魔法使いさんはにこやかに微笑んだ。
 彼は爽やか顔のロンゲのイケメンで東京タワーに住んでいる。
 ここらへんで最後に残った人類と言えるが、魔法使える奴が人類かというと微妙かもしれない。
 魔法使いなので、魔法で自給自足しているらしい。
 俺の運んできたホットドックにさっそくかぶりつき、目を笑わせた。
「あはは、魚肉ソーセージですよ」
 まあ、豚のソーセージは難しいかもなあ。
 真空パックか缶詰のソーセージならまだ残ってそうだが。
 レタスの代わりにワカメがパンに挟んであった。

 俺は魔法使いさんから三つ離れたセンタースタンドの真ん中に陣取った。トド夫がどすどすとやって来て、来賓三人はセンタースタンドの中段に集まって大会を見ることになった。

「しかし、大がかりですね。これだけ電気をつかうとなると、海中のシールドが大変そうですね」
「秋葉原に住んでるやつらだからなあ。電気技師の人魚が沢山いるんだろう」
「発電機を見せてもらったよ。管理棟の三階で、もの凄く沢山ブンブンいわせていたよ。燃料も沢山つかうだろうねえ」
「人魚は大所帯だからなあ。サルベージも盛んだし」

 来賓が適当な事を喋ってる下で、人魚姫がわんわんハウリングを効かせて演説をしていた。
 彼女は水色のビラビラしたドレスを着て、マイクを持っていた。
 小指を立ててマイクを持っているので、演歌歌手のようでもある。
 これまでの人魚の歴史とか、いかに人魚が人間に迫害されてきたかを切々と訴えていた。
 中央でひしめきあう人魚の大群が人魚姫のアジテーションに煽られうおおと歓声をあげる。

「あれだな、文化祭っぽいね」
「そうですか、僕は昔参加したマルチ商法の集会を思いだしましたよ」
「BGMは良いけど、コーラスは下手だねえ」
 来賓三人は単なる野次馬だな。

 行事はどんどんと進む。人魚のマスゲームとかを見て、あほくさくなって眠くなった。

「さて、大会もたけなわになりましたので、重大発表を行います」
 人魚姫が再びステージに現れた。
 ウオンウオンとハウリングが響く。

「我々人魚帝国は人間に対して宣戦布告を行いますっ!」
 はあ?
「人間なんかもう居ないじゃないかと思われる方もいらっしゃいますでしょうが、実は人間は力を蓄え、またこの地球を支配しようと虎視眈々と狙っているのです!」
 人魚姫の後ろのオーロラビジョンが明滅した。
 なんだか悪の海上秘密基地のような物が画面に映し出された。
「これが人間どもの最後の要塞、海上都市ムラサメです」
 うおおと会場がどよめいた。
「推定人口は約二万人、この海上都市の中に人間がひしめきあっているのです! 現在地は小笠原沖30海里。人魚帝国領土に向けて微速で進行中なのです!」

 隣の魔法使いがポケットから電子機器を出して素早く叩いた。
「本当だ、見てください」
 魔法使いの差し出したパソコン(?)のディスプレイにオーロラビジョンの物と同じ物が映っていた。
「僕の偵察衛星の映像です」
 あんたは何を拾って使ってるのかね。
 夜の海を行く海上都市ムラサメは科学で作られた亀のバケモノみたいだった。
 チラチラと光が明滅し、動いていた。
「実在するんだねえ」
 トド夫がのぞきこんでそう言った。
「二万人は法螺かもしれませんが、確かに人は居るようです」

「でもご安心下さい。当方に迎撃の用意ありですわ」
 人魚姫が片手をあげると、クレーンが腕を振り、海中から黒くて葉巻型の大きな物が引き上げられた。
 魚雷……かな?
「米軍基地からサルベージした核魚雷です。我々は核の炎で侵略者どもを焼き払うのですっ!」

(つづく)
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by sakananovel | 2006-10-06 20:50 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【3】

 音楽が遠くから聞こえてきて、俺は本の中の宇宙戦争から引き戻された。
 中学校の吹奏楽部みたいな、下手くそで、ちょっと投げやりで、騒々しい行進曲がどんどん近づいてきた。
 窓を開けて下を見ると、人魚の楽隊が行進していた。
 楽隊の後ろにはイルカに引かれた山車みたいな物が海面を移動していた。
 人魚姫のイルカ馬車だ。

 馬でも車でもないのだが、人魚どもはあれを「イルカ馬車」と言って譲らない。
 正確には「イルカ牽引ボート」だろう、水に浮かんでいるのだし。
 山車の脇には飾りの車輪がついていて水を引っかき回していた。

 アールデコ調の彫刻で飾られた窓が開いて人魚姫が顔を出した。
「河童さーん」
 げ、見つかった。
「一緒にのっていきませんこと?」
 優しそうで綺麗で上品だけど、実は人魚姫は心が狭い。
 ここで俺が断ると烈火の如く怒った人魚の大群、約二百匹に追いかけられる羽目になりそうだ。
「いいんですか?」
 一応聞いてみた。
 人魚姫はドアを開いて手招きしていた。
 おやつにされませんようにと祈りながら俺はイルカ馬車の近くへ飛び込んだ。

 イルカ馬車の中は凄く揺れる。
 縦波を越すたびに人魚姫の頭が揺れて王冠の飾りがちゃらちゃらと鳴った。
「いいんですか、俺なんかをこんなすばらしいものに乗せて」
 滅多に使わない河童のおべんちゃらだ。
「大切なご近所さまですし、それにいつも結ちゃんがお世話になってますから」
 結の世話なんかしてねえよ。
 俺はイルカ馬車の中ですごく居心地が悪い。
 人魚姫は俺の方を向いてふんわりとわらっていた。
「たまには秋葉原にも遊びにきてくださいましな」
 俺にとって秋葉原は水没前のニューヨーク、ブロンクス並に行っちゃならない場所だ。
「え、ええ、そのうち」
「河童さんも前世紀は人間に酷い目にあわされたのでありましょう?」
「まあ、それは河童ですから」
「私たち人魚もそれはそれは酷い目にあいましてね。世界が水没してざまあみろでございますのよ」
 人魚姫たちは水没前から人魚だったから大変だったと聞く。
 サーカスで見せ物になってたとか。
 だから人魚姫は人間を激しく恨んでいる。
 もう、やばいぐらい憎んでいるのだ。

 俺も人間はあまり好きでは無かったが、それでも高校時代「お前は河童だが良い奴だ」と友だちになってくれた奴もいて、人魚さんたちとは大分違う。
 ちなみに友だちたちは、水没後、みんな死んだ。
 俺が見取って野辺送りをした。

「だから、私どもは報復をするのですわ」
「報復?」
 何するつもりだ、この姉ちゃん?
 人魚姫は俺の質問を無視して、くすくすと笑った。
 楽しそうにくすくす笑った。

 イルカ馬車は波をかき分けて後楽園に近づいて行く。
 後楽園ドームはピカピカに磨き上げられ、電飾を四方八方に掛けられ、アニメの魔法要塞みたいな雰囲気になっていた。
 人魚がもの凄く沢山うろうろしていて、俺はぞっとした。
 ドームの中へイルカ馬車は入り込んでいく。

「なーに河童の分際で姫様と一緒の馬車に乗ってんだ、お前っ!」
 結が、人魚姫と降りてきた俺を見て、そう毒づいた。
「結ちゃん、私が誘いましたのよ」
 それを聞いて結はぷうと脹れた。
 俺は結が一足で襲いかかれないように距離を取った。
「喰わないっていったでしょっ!」
「信用ならん」
 俺たちの掛け合いをみて、人魚姫はクスクス笑った。
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by sakananovel | 2006-10-05 18:46 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【2】

 遠い、轟音で目が覚めた。
 またどこかのビルが倒壊したのだろう。
 コンクリートは塩分に弱い。
 あと五年もすれば、銀座の街も完全に海に沈むのだろう。

 外は青く明るくなっていた。
 窓際に干した鰺を一枚取って囓った。
 良く晴れていた。
 読みかけのスペースオペラを手に取って、また読み出す。
 そう言えば今日は満月で、頭の悪い人魚どもの大会がある日だな、と、思いだした。
 めんどくせえと思った。
 獰猛な人魚どもと近所づきあいしても何の得も無いなと思い、鰺を囓りながら宇宙戦争の話に没頭した。

 良い感じの所で続きになり、次の巻を手に取る。
 ……。
 あれ。
 一巻抜けてるな。
 八巻を読み終わって九巻のはずが、十巻からしかない。
 くそ、持ってくるとき間違えたか。
 とりあえず立ち上がって、本屋ビルの五階に上がり新書SFのコーナーを探したが、九巻は無かった。
 なんてことだ!
 くそうっ! 要塞衛星がどう陥落するのか気になって気になってしかたがない。
 神田の本屋街に探しに行くか。

 俺は本を入れるための防水リュックを背負い、窓から海に向かって飛び込んだ。

 冷たい感触が体を包み、えらから入った海水が体内を通って脇に抜けていく。
 銀座から神田までは泳いで二時間というところか。
 俺は国道に沿って泳ぐ。
 水没した街に貝や海藻がびっしり付いて人工物の感じをぼやかしている。
 鰺が群をなし、鯖が泳ぎ、黒鯛が身を隠す。
 魚たちの上を飛行する感じで俺は泳いでいく。
 高速道路の合間から光がカーテンのように差し込んで、青くて静かな水の中に俺一人だった。

 なんで本好きなのに神田の本屋街に住まないかというと、秋葉原が人魚の群生地だからだ。
 肉食で獰猛な奴らの隣りに住みたいとは思わない。
 人魚どもは電気製品とかをサルベージして、なかなか文化的な生活を送ってるようだが、俺には関係ない。

 神田に泳ぎ着いて、書泉の建物に入った。
 前に来たときよりもずっと本が傷んでいる。海からの湿気と潮風は本に良くないのだが、どうすることもできない。
 探していたスペースオペラの九巻目は平台に逆さになって置いてあった。
 災害の後、誰かが手にとって読んだのかな?
 とりあえず続きを最後までリュックに入れて書泉を後にした。
 行きつけの喫茶店で続きを読むことにする。
 ビルを三つほど離れた所にある喫茶店は神田に来たときの俺の拠点だ。
 正確には元喫茶店だが。
 窓から入り込み、体を振って水を落とす。
 リュックをテーブルに置いて、キッチンに入った。
 この前持ち込んだ携帯ガスコンロでお湯を沸かした。水はミネラルウオーターという贅沢さだ。
 前は豆を探して本格的なコーヒーを入れていたのだが、水密の関係で今はインスタントコーヒーだ。

 お茶の支度をしていると、ドアがカラコロなって、どすどすと足音がした。
 店の中を見ると、トド夫が椅子にどっぷりと座り込んでいた。
「マスター、ホット」
「いらっしゃいませ」
 笑いながらなんとなくのってしまった。
 河童の喫茶店にはトド男のお客さんが来る。
 出来上がったコーヒーを持って、トド夫のテーブルに置く。
「ありがとう、良い香りだねえ」
 トド夫はカップを持ってうっとりと匂いを嗅いだ。
「災害前物のネスカフェゴールドブレンドだよ」
「なんとも懐かしい味だね」
 トド夫は嬉しそうにコーヒーを啜った。

 俺は自分のコーヒーをテーブルに置いて、ソファーにひっくり返ってスペースオペラを読み始めた。
「誰かが使ってる場所だとは思っていたのだけどね、河童君だったか」
「神田は良く来るからね。トド夫も本の調達かい?」
「僕は水道橋の楽器屋を覗こうかなと思ってね」
「なんか演奏するのかい?」
「トド男になる前はギターを弾いていたのだよ。一本持ってたのだけど、うっかり海に落として壊しちゃってね」
「そうか、良いのが残ってるといいね」

 トド夫はトドの半獣人だ。
 狼男とかの仲間らしい。
 アラスカに外人のトド女の嫁さんが居て、時々あっちに行ってる。
 何ヶ月もかけて往復するなら、アラスカに住めばいいのにと言ったら、寒いのが駄目なんだと笑った。

「人魚さんの建国大会には出るのかね」
「めんどくさくてね」
「ごちそうが出るらしいよ。あと河童君がこないと結ちゃんがさびしそうだ」
「結はおやつが来なくて口寂しいだけだよ」
「混血ができればいいのにねえ」
「喰われるのはヤダ」

 ごちそうさまと言って、トド夫はのすのすと店を出て行った。
 俺は本の中の要塞衛星戦に没頭した。

(つづく)
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by sakananovel | 2006-10-04 10:05 | かっぱらっぱかっぱらった

かっぱらっぱかっぱらった【1】

 海の水位が五メートル上がって、沿岸都市は水没し、人類はほぼ滅んだ。
 なんで海面が上昇したのかは、俺は知らない。
 きっと南極の氷が溶けたかどうかしたのだろう。

 一面の海に島のようにぽこぽことビル群が突き出し並んでいて、まるで中国の水墨画みたいな風景でもある。
 人間が銀座から居なくなるまで五年ぐらいかかった。
 最初のうちはビルに残った人間が結構居たのだけど、下が水では生活も出来ないのでいつの間にか居なくなり、俺は銀座に一人きりだ。
 山の方に新しい人の街が出来たとも聞くけど、行ったことがないので知らない。

 俺は地球最後の河童だ。
 河童の父、河童の母から生まれた。
「河童に生んですまないな」
「河童に生んでごめんね」
 両親はそう謝っていたし、高校時代は河童ということで色々辛い目にもあったが、都市が水没した今は河童で有ることがありがたい。
 ちなみに両親は五年前の水没災害時に色々あって死んだ。
 地球上に残された河童は俺一人になった。

 俺は本屋のビルの四階に住んでいる。
 雨の日は本を読み、晴れた日は海に潜って魚を捕っている。
 河童一人生きて行くには不自由はない。
 太陽と風と海と海鳥だけを相手に俺は暮らして居る。

「寂しくねーのかさ?」

 外でばちゃりと水音がして、いきなり声を掛けられた。
 読みかけのSF小説が手から滑り落ちて張り出しから二メートル下の海面で顔を出していた佐原結(さはらむすぶ)の近くに落ちた。
 結は本を軽く空中に放り上げ尻尾で弾いて俺の方へ返した。
 帰ってきた本は粘液でぬらぬらして生臭い。
「もともと一人だったからなあ、気にならないよ」
「お前はニートだな」
「ま、五年前もおんなじだったな。学校行って帰りに図書館よって本を借りて夜読んでって」
「河童の癖にインテリくせえ、生意気だ」
「ほっといてくれ」
 結はぴょんと宙に跳ね上がると頭上を飛んでいた海猫をひょいと抱えるように捕まえた。
 鋭い牙が一杯生えた口を大きく開けて彼女は海猫を囓った。
 びゃあびゃあと海猫の上げる悲鳴がうるさい。

 結は数少ない近所の者だ。
 人魚をやっている。
 元々は普通の女子高校生だったが、五年前に海水に包まれた時、はじめて自分が人魚だったと気がついたらしい。
 見た目は凄く可愛く、愛らしく、頭が悪そうで、とても良い感じなのだが、いかんせん肉食だし、人魚なので仕方がない。
 始めて会った時に結が抱きついて来たので、うほっと思って喜んだら、鋭い牙でガリガリッと肩を囓られた。
 今でもそこは窪んでいる。
 それ以来、俺は結の手の届く範囲に近寄らない事にしている。

「なーぐーさめてやろうか」
 結が水からちょこんと出た電話ボックスの天辺に腰掛けて生殖穴を指で広げた。
 まあ、本人はセクシーに誘ってるつもりなのだろうが、ぜんぜん色っぽくも無いし、猥褻感もないし、何というかそれただの穴だしなあ。
「要らない。第一やってる間に喰う気だろう?」
「え……。あー、終わるまで我慢するからさあ」
「終わったら?」
「え、食べるよ」
 結は不思議そうな顔で聞き返した。
「お断りだ。それより、なんか用があったんじゃないのか?」
「え、ああそうだった。姫さんから親書を預かって来たんだ。トド夫の所にもいかなきゃならないからお前にかまってる時間なんかないや」
 結は腰のポシェットから手紙を出すと、また尻尾ではたいて俺の方に飛ばした。
 ビニールコーティングされた手紙にぺったりと粘液がついていた。
「姫さんが何用だ? 恋文か?」
 結はげらげらと笑った。
「河童のくせに生意気な」
 手紙を開いてみた。
 プラスティック紙に今では珍しくなったレーザープリンターで印刷してある。

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 人魚帝国建国記念大会へのお誘い

 夏の近づく陽気の良い昨今。
 水棲人類の皆様におかれましてはいかがおすごしでしょうか。

 地をはい回るしか能のない哀れな旧人類が滅びてから五年、愛らしい人魚達も産めよ増やせよ海に満ちよというスローガンの元、約五千人の人口を数えるようになり、ますますの発展いたしております。
 このたび、わたくし、人魚姫が帝王として即位し、人魚による人魚のための人魚の国である人魚帝国の建国を宣言します。

 八月の満月の夜、東京ドームにて人魚帝国建国記念大会を盛大に催したいと思います。
 ご近所お誘い合わせの上、是非ご参加ください

 人魚姫
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「人魚帝国?」
「そうだ、私たち国を作るんだよ」
「東京ドームで建国大会?」
「準備を盛大にやってるよ」
 人魚は水棲人類としては最大勢力だ、というか、水棲人類って、秋葉原の人魚の他は、上野のトド夫と東京タワーに住んでる魔法使いしか居ないぞ。
「お祭りなんだからさ、きなよ。御馳走でるよ」
「なんか俺が御馳走になってしまう気がするんだが」
「お客さんは喰わないよ、じゃ、絶対こいよ」
 じゃあっと言って結は手を軽く振って海の中に消えた。
 海面に映る結の影が、飛ぶような速度で沖に移動していくのを、俺はじっと見ていた。

(つづく)
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by sakananovel | 2006-10-02 16:59 | かっぱらっぱかっぱらった