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円舞楽屋裏【2】意外に書ける天悪

天使と悪魔の円舞は、意外にサクサク書けてびっくりなんですな。
まあ、たいした話では無いというのもありますが。

で、【15】で一休みざんす。
コミケ用の作業をやらねばー、であります。
まあ、切りもいいので、第一話「天使と悪魔がやってきた」終了って感じで(^^)

再開は来年になってからですな。
バトル展開が始まりますですよ(^^)
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by sakananovel | 2007-12-07 09:07 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【15】 二つの愛の形

 僕は寝ている。
 夢を見ていた。

 そこは広大な漏斗型の盆地だった。陰鬱な空気が漂い、空は岩盤に覆われて薄暗い。鼻をつく硫黄の匂い。
 そこは地獄で、僕が羽を動かすと、きな臭い匂い、耳障りな悲鳴、遠い雷鳴、が風にのってやって来た。
 僕の羽は夜のように漆黒。
 円環状の塹壕の縁に立った異形の悪魔さんたちが、空を行く僕に手をふった。
 そこは荒涼とした世界だった。木々は小さく地面にへばりつくように黒く、川はよどんで黒く濁っている。
 岩だけがごろごろと並んでいた。

 糞便が満ちた溝があった。公園の公衆便所のような嫌な匂いが僕の飛ぶ上空にまで漂っていた。
 汚物で顔も姿も解らないぐらいになった人間が、溝の中をよろよろと歩いていた。彼らの歩みが遅くなると、無表情の悪魔が長い銛で、ガシガシと亡者をつついた。
 亡者の中に小さい人がいた。
 彼は胸を張っていた。汚物にまといつかれ、顔も肌も見えないぐらいなのに、彼は王者のように胸を張り歩く。
 小五郎さんだ、と解った。
 その誇り高い姿は、猫背の亡者たちの中で激しく目立っていた。
 土手に立つ悪魔達は銛で彼をつつき、大きな傷を与えるが、確かな足取りは揺るぎもしない。
 どんなにつつかれても、彼は頭を下げず、胸をはり、血を流しながら歩く。

 大人のレビアタンが土手を歩いてくる。
 それは綺麗で繊細で、貴婦人のように優雅に彼女は歩いてくる。
 亡者の小五郎さんは土手の上のレビアタンに気付き、頭をさげる。
 二人は、ふっ、と微笑みあう。
 柔らかい空気が通い合う。
 二人は声をかわさない、ただ見つめ合う。
 それだけで、たぶん、お互いの気持ちが全部わかってしまうのだろう。
 レビアタンが軽く手を上げる。
 小五郎さんも手をあげる。
 ふと、レビアタンが悲しそうな顔になり、うすくまったと思ったら、僕の知る小さなレビィに姿を変え、涙を流した。
 小五郎さんは心配しないで、というように微笑む。
 レビィはかがみ込み、泣く。
 彼女はセーラー服のポケットからお菓子の箱を出して、小五郎さんに投げる。
 それは、コアラのマーチで、地獄にはない目がさめるような緑色をしている。
 小五郎さんはコアラのマーチを受けとり、優勝カップのように額におしいだき、深く礼をする。
 レビアタンは背を丸め、地面に伏せて泣く。
 彼の持つコアラのマーチの緑色の印刷が、汚物に汚染され、じわじわと穢れていくのを、僕は悲しい思いで見ていた。

 不意に大風が吹き、僕は宙に飛ばされる。
 羽ばたいても羽ばたいても、そこに居ることは出来ずに恐ろしい速度で上へ吹き飛ばされていく。
 下をみると、王者のように歩き出した小五郎さんと、伏して泣くレビィが見えた。

 ゴウゴウと音を立てて、風が僕を巻き上げた。
 岩肌の天井が見えてきて、大きな門が見えた。
 そこから僕は吹き上げられて、木の葉のように虚空へと舞い飛んだ。
 何もない、真っ暗な空間に、長い橋だけが架かっていた。

 いきなり風が止まり、ぱたぱたと羽ばたくと、近くに大きな山が見えた。
 ブリューゲルのバベルの塔みたいな、岩山だった。
「よしだー、何してるんだ、こんなところで?」
 ふと視線を上げると、巻頭衣を来たガルガリンが、鈍色の羽をぱたぱたさせて飛んでいた。
「うわ、硫黄くさっ! 地獄見物してたね、よしだは」
「い、いやその」
 うわ、烏なのに僕は喋れた!
「ちょっとまて」
 いきなりガルガリンは僕の羽を掴むと、乱暴にばたばたと振り回した。
「穢れはらえよなあ、煉獄の山の近くなんだから」
 僕の体から、黄色い埃みたいな物が出て、宙に落ちていった。
 なんか、体の温度を一緒に祓ったみたで、僕は凄く寒くなってきた。
「うわ、だけど可愛いなあ、よしだ。なんでこんな所へ?」
「いや、知らない、寝たはずなんだけど」
 ガルガリンは震えている僕を見て、胸の中に抱きしめてくれた。
 うわ、暖かい。
「神格が上がったからかな? 普通は来れないんだけど。あと姿も偽物くさい、なんか烏が出てくるお話が好きなんじゃない?」
 烏が出てくる?
「あれか? 京都で作られたアニメの」
「覚えある?」
「翼人の記憶を主人公が烏になって届けるってアニメがあったなあ」
「それだね、本物の形は、そのうち出てくるんでしょ。仏像みたいなやつだよ、きっと」
「うーん」
 それはやだなあ。帝釈天みたいなマッチョ系になるのかなあ。
「ああ、それよりも、なんか変な光景見たよ。今の地獄じゃないような」
 まだ、小五郎さんは死んでないよね。
「どんなの?」
「レビィが、堕落させた人と地獄で面会してるような」
「ああ、それはたぶん預言だわ」
「預言? 未来の光景?」
「そう、これから起こるかもしれない時空の光景。そっか、小五郎と三郎の所へ行くのか、やさしいな、レビィは」
「知ってるのか?」
「うん、愛し合ってて、素敵だったよ」
 ガルガリンはそう言うと、僕を抱きしめて頬ずりした。
 てれくさいからやめれー。
「時々、レビィの情熱が羨ましくなるんだ」
「なんで? ガルガの方が、正しいし、栄光に包まれてるし、永遠じゃんよ。あっちは一瞬だよ」
「わかってないなあ、ボクとの関係は永遠だけど、永遠に高みを目指すんだよ」
「うん、いいじゃん、愛し合ったまま永遠だよ」
「ボクも天使だから、不完全なんだよ。で、人もまた不完全でしょ。完全なのは神様だけだよね」
「うん、いいじゃん、永遠の幸せだ」
「永遠にずっと高みを目指してのぼりつづけるってのは、永遠に終わらない努力なわけで、結末がないのよ」
「あ、あれ?」
「ある程度までいくと愛の量とかそう増えなくなって、ちょっと増える為に一万年~ とかね」
「ひょ、ひょっとして単調?」
「すごく単調、いつまでたっても同じ。もうね、百年もすれば話題とかないし、延々上り続けるだけ」
「そ、それは……」
「だから、一瞬で爆発的にもえあがる恋って、ちょっと憧れる」
「堕天でもしろ」
「うふふ。このまえ堕天もいいよねって同僚と噂してたら、ラファエル隊長にこづかれた」
「ちょっと教えてくれ」
「うん」
「なんか、地獄で見た光景なんだけど、小五郎さんはすごい堂々として、揺るぎない愛だったんだが、あれでも罪なの?」
「うん、悪魔と愛し合うのは罪だよ」
「でも堂々としてて、罰を受けてる感じはなかったなあ」
「そういうもんだよ。地獄にはホモのエライ人とか居るし、そう言う人は悔いとか無いんで結構堂々としてるよ」
「地獄の底でも、心さえ確かなら、別に天国と変わらないのか……」
「心の置き所って面白いよね」
 パアッと水平線の向こうで眩しい光が差した。
「おっと夜明けだ、もう、帰れー。あとで一緒に登校しようぜ」
「ど、どこに帰れば?」
「帰りたい所に飛べば帰れるっしょ」
 ガルガリンが手を開いて、空中に僕を放った。
 僕は朝の光の方に目がけて飛んだ。

 ドン。と衝撃があって、床が見えた。
 ベットから落ちたらしい。
 ……へんな夢をみたな。

 朝ご飯を食べて、さあ登校……。
 僕は家を出て、大回りして、学校の裏の三百階段から登校する事にした。
 丘を一回りするので、かなり遠いけど、孤高の登校を守るためなのでしかたがない。
「ありゃ、吉田、なんでこっちから?」
「いろいろな理由で」
 途中で会った斎藤と、エロイ話で盛り上がりながら一緒に登校した。
 教室に入って机に鞄を置いて、ふう平和平和と平和を満喫していると、どたどたどたと廊下で足音がして
「よしだーっ!!」
「吉田くんっ!!」
 と、馬鹿二人が元気に登校してきた。
 くそ、気がつくの早いよ。
「おはようー」
「明け方一緒に登校しようって約束しただろっ!」
「な、なんの話だ?」
 夢で約束したとか言わないだろうな。
「明け方!! そ、そんなあ、ガーン」
「アストラル界で、よしだがぱたぱた飛んでてさあ」
「えー、吉田くんすっごいよう」
「というか、おまえら何でこんなに早く……」
「ミニスカポリスの格好をした変な人が教えてくれたんだ」
「ぼそぼそっと、吉田少年は別の道で登校してしまったぞ、とか言ってた」
 魔女さんめー。
 というか、ミニスカポリス……。見たかった……。
「おはよう、みなのしゅう」
 石川が入ってきたらクラスがシンと黙り込んだ。
「石川くん、つるっぱげ」
「僧侶かっ! ホトケの道に入ったのかっ!」
 石川が頭をつるりんと丸めていた。
「こういうのは形から入らないとな。文平和尚、おはようございます」
 石川は合掌して僕を拝んだ。
「か、改心しすぎだ」
「それだけじゃねえぜ、俺は昨日徹夜して、仏法を勉強した! 法然も、親鸞も、蓮如もすげえっ!! 漢だぜ、やつらはっ! 織田信長にたてつくとは、漢の中の漢立ちだっ。俺は感動したぜ、文平和尚」
「和尚はやめろー」
 石川は誇らしげに、『仏教コミックス親鸞の生涯 』を僕に差し出した。
「俺もあの人たちみたいに、南無阿弥陀仏を唱えて一向一揆をするぜ!!」
 せんでええ、せんでええ。
 石川はくるりとクラスメイトの方へ向いた。
「今日、ここに宣言する、俺はレビィ派を抜け、吉田が率いる阿弥陀派に入るっ!!」
 登校してきたクラスメイトが、うおおおとどよめいた。
「アミダ派?」
「えー、仏の派閥~?」
「そうだ、仏の派閥だ、南無阿弥陀仏を唱えれば極楽往生間違いなしだ! いいか、お前ら、天使が居る」
 とそう言って、石川はガルガリンを指した。
「そして、悪魔もいる」
 レビアタンを指した。
「ということはだ、仏も実在するんだ。よく考えてみろ、天使と一緒に天国いくのは戒律がきつくて大変だ、悪魔は現世で色々楽しませてくれそうだが、死後は地獄行きだ。だが、阿弥陀様はその慈悲で、南無阿弥陀仏を唱えた奴を漏れなく西方浄土へ連れていってくれるんだ! すばらしいディスカウント! すばらしい御利益だ! さあ、今すぐ南無阿弥陀仏を唱え仏に帰依しろっ!」
 石川、お前、意外にアジテーション上手いな。
 ガルガリンがわははと笑い出した。
「石川、惜しいねっ! だが、これは番を張る競争なんだよ、君がレビィ派を抜けたから、数の均衡が崩れた。このクラスの番長は、ボク、ガルガ……」
「ちょっとまった~」
 胡桃が立ち上がった。
「私、阿弥陀派、というか、うち禅宗なんで、仏派にはいりまーす」
「な、なんでっ! 胡桃、行っちゃうの?」
「ごめんねえ、ガルガ、私、西洋の神様あんまり好きじゃないの」
「神様を裏切るのっ!! 結城さんっ!! あなたはユダになると言うのっ!!」
 讃岐広美が凄い勢いで怒鳴った。
「広美ちゃん、ごめんねえ」
「ほおー。これで、19人対19人対3人だ~」
 胡桃がすたすたと僕の席の方に歩いてきた。
「ああ、解ってるぜ、芳城、俺にはお前の気持ちが良くわかる。お前は吉田が好きなんだな」
 石川のアホな言葉に、ビキッと、音がするような感じに、胡桃の表情が凍り付いた。
 うわー、鉄仮面モードだ。
「見てれば解るって、ずっと芳城は……、ぐあああっ!! ちょ、ちょ、痛っ!! ギブギブ」
 胡桃は無表情に石川の顔にアイアンクローをかましていた。
「うぎゃあっ! いたいいたい、女の力じゃねえっ!! うそうそ、ギブギブ」
「今度ふざけた事いったら、殺すからね……」
「ご、ごめんなさい……」
 石川は頭を下げた。
 胡桃は仮面のように無表情だった。
「しかし、なんでまた、ガルガを番長にするんじゃなかったのか?」
 胡桃が僕の耳に顔を寄せた。
「広美がヤバイのよ。ガルガ派がクラスを牛耳ったら、文平と馬鹿石川は凄いイジメにあうところだったわよ」
「マジ?」
「昨日の夜、裏で連絡が走ってたの、ヨブに鉄槌を食らわそうって」
「うへえ」
 讃岐広美の方を見たら、こちらを蛇のような目で睨んでいた。
「仏派は、誰が番長になるの? 吉田くん?」
 レビアタンが嬉しそうに聞いてきた。
「え、僕やだよ、石川がやれよ」
「何を言ってるんだ、文平和尚。お前が法然なら、俺は親鸞。お前が親鸞なら、俺は蓮如。どこまでも俺はお前に師事し、ついていくぜ!」
「じゃあ、胡桃が」
「残念ね、禅宗は小乗仏教なんで、他人様の救済なんて眼中ないのよ」
「いや、僕も眼中ないけど」
「いいからっ。仏派の番長候補は吉田文平です」
 うおお、ヨブー! と歓声が上がった。
「じゃあ、よしだの演説を聴かせてよ、クラスをどうしたいかって」
「んー、普通」
「立って、ちゃんと演説しなさい」
 僕はしぶしぶ立った。
「えー、ご紹介にあずかりました、吉田文平です……」
 えー、何言えばいいんだ。
「えー、僕の目指すクラスは、そのー、普通です」
 普通か。
 そうだなあ……。
 僕はレビアタンを見た。
 そしてガルガリンを見た。
「僕は普通が良いと思います。天界から来た天使の子も、魔界から来た悪魔の子も、楽しかったり、嬉しかったり、悲しかったり、迷ったり、そんな普通の女子中学生として、生活して、一緒に考えたり、遊んだり、勉強したりして行くクラスが良いと思います。
 クラスには色々な人がいて、色々な考え方があると思うんです。でも、そういう違いを簡単に排除したり、むりやり変えたりせずに、緩やかに、普通にとけ込めて、楽しい一年がすごせるクラスが、僕の理想です」
 クラスはシンとなった。
 はいはい、きれい事で白けましたね。
 ……と思ったら、みんな立ち上がって万雷の拍手をくれた。
 な、なんだ、おまえら、騙されやすすぎだっ!
「すげえぜ、さすが文平和尚だ!」
 石川が拍手をしながら、笑った。
「なかなかじゃない」
 胡桃が笑った。
 そうかい?
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by sakananovel | 2007-12-07 01:56 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【15】 看護婦と盗聴

 張り切った石川は、これから図書館で浄土真宗の本を借りて仏法を研究すると言って走り去っていった。
 超改心だよなあ。
「帰ろう、送っていくよ」
「うん」
 僕はレビアタンと肩を並べて宵の口の街を歩いた。
 僕も彼女も、黙り込んで歩く。
 山の上の中学校校舎の上に月が昇り始めていた。
「吉田くん……」
「なんだ?」
「ありがとうね」
「なにが?」
「んん、いろいろ」
「別に、友だちだろ」
「うん、ありがとう」
 お屋敷についた。
 いかついおじさんが門を開けた。
「ねえ、凄い傷だよ、手当してあげるよ」
「え? ああ、いいよ別にそんなに痛くない」
 石川の殴られた顔はジンジンと痛み、頬が張れて、歯茎から血が出ているのが味で解った。
 体もあちこちが鈍く痛く、ところどころ痺れた感じになっていた。
「でも……」
「また明日」
「おやすみなさい」
 僕は背中を向けて自分の家の方に歩いた。
 しばらく行って振り返ると、レビアタンは、まだ門の所に立っていて、こちらを見ていた。
 かるく手を振って、僕はまた歩き出す。
 体中、もの凄く痛いけど、痛くないよ。

 角を曲がった途端、僕は看護婦の格好の魔女さんに、いきなり捕獲された。
「まあ、こい」
「な、なんなんですかっ! なんでナース服ですかっ!」
「魔女だからだ」
 いつも通りぶっきらぼうに言うと、魔女さんは僕の襟首を掴み、黒いバンの中に押し込んだ。
「運の良いことに、今の私の職業は看護婦だ、治療をしてやるから、そのかわり公園であったことを全部話してもらおう」
 バンの中で、メイドさんが苦笑いしながら、僕に椅子を勧めた。
 ピンクのナース服に身をつつんだ魔女さんは、脱脂綿にごぽごぽとオキシドールを含ませて、僕の傷を拭いた。
「い、痛い」
「大丈夫だ、私は痛くない」
「そりゃ痛くないでしょう。いたたっ!」
「手ひどくやられたな。少年は喧嘩が弱いようだな」
 本職の看護婦みたいに手際よく、魔女さんは傷を処置していた。
「って、ちょっと、なんで服をぬがしますかっ!」
「脱がさないと、打撲の具合がわからない」
「あ、駄目ですよ、ズボンは堪忍してください」
「検診出来ぬだろうが、医療行為だ、変な邪推をせず脱ぐがよい」
「検診って、看護婦は検診しません、医者じゃないのだから」
「医師免許も持ってるぞ、偽造書類だが」
「医師免許を持っていたら女医です、看護婦じゃないですよ!」
「偽造だから看護婦だ」
「どういう理屈なんですかっ!」
 メイドさんがくすくす笑いながら、僕の脱いだ服にブラシを掛け、汚れを落としていた。
「い、いたたっ!」
「つまらぬな、ほとんど打撲で、骨折とかがないぞ、手当のしがいが無い」
 そう言うと魔女さんは、なんか軟膏を……。メンソレータムをぺたぺたと打撲の箇所に塗った。
「打撲にメンタム効きましたっけ?」
「何を言ってるんだ、何にでもメンソレータムは効くぞ、魔法の治療薬なんだ」
 ぬりぬりと魔女さんの手がメンタムを僕の体に擦り込んでいく。
 なんとも照れくさくていたたまれない。
「公園で何をしたのだ? 音声だけは拾ったのだが、公園にはカメラが無かった。悪魔の契約を破棄させたような感じだったが」
「いや、そのとおりですよ。痛っ! レビアタンが石川を騙して契約を結んでしまったので、破棄させました」
「どうやって? なにか不思議な力でも使えるのか? 神格があがったせいなのか?」
 というかー、魔女さんはなんでも知ってるんだなあ。朝のガルガリンと僕の会話も聞いてるのか。
「地獄行きの契約だとか言ってたので、石川に、南無阿弥陀仏を唱えさせたら、その契約が破棄されたようです」
「悪人正機説か、石川は仏に帰依して、死後の行き先が地獄から西方浄土へシフトしたのだな。それによって堕落から回避され、レビアタンの支配が切れたのか……」
「石川は超改心して、一心に阿弥陀を拝むと言ってましたよ」
「死後の魂が救われたのだ、それほどの感動だったのだろう。しかし……、仏は実在するのか?」
「さ、さあ?」
「天使と悪魔だけでも厄介なのに、他の神々まで光臨されたら大混乱になるな。困ったことだ」

「レビアタンが携帯電話を掛けています。着信先、伊藤小五郎です。傍受します」
 男前のお兄さんが、何かの機械のスイッチを入れた。
 電話の呼び出し音が、バンの中に響いた。
「で、電話まで盗聴してるんですか?」
「われわれは何でも知らないといけないのだ。気にするな、個人的な情報は聞いた端から忘れている」
 ガチャッと音がした、相手が出たようだ。
『はい、伊藤です』
『あのお、もしもし、レビアタンです……』
『ああ、これは、お元気ですか、何ヶ月ぶりでしょう、最愛の君よ』
『ごぶさたしてます、小五郎ちゃんの声が急に聞きたくなって、今だいじょうぶですか?』
『もちろん大丈夫ですよ。我が君』
『えーとですねえ……』
「誰ですか、この相手の人」
「我々の元仲間だ、旅行中、レビアタンに堕落させられた一人だ」
 ああ、と僕は納得した。
『堕落の事で言いたい事があるんです』
「レビアタンめ、石川が契約を逃れたので不安になって確認か?」
 魔女さんが、ぼそりとつぶやいた。
 そうかもしれない、あんなに簡単に契約が破棄されたら悪魔も困るのだろう。
『はい、なんでしょうか?』
『あの、堕落を簡単に直す方法が解ったんです。それをお伝えしようと……』
『はあ、そうなのですか?』
「なに?」
 魔女さんは天井を見上げ眉をひそめた。
『他の宗教に改宗すると、堕落は解消され、地獄に堕ちなくてすむみたいです』
『はは、そうなのですか』
『私も今日知りました。お伝えしなければと思ったんです……』
『後悔、なさっているのですか? あの日々の事を、私たちを堕落させた事を』
『……後悔は、してません。あの頃は、本当に楽しくて、あなた達が愛しくて、今でも心が熱くなります』
『そうですか、それは良かった』
『でも、私は変わってしまう存在なんです。今はあなた達が愛してくれたレビアタンではありません。信じられます? 今は私、中学生の女の子の姿で、中学生の心になっているんですよ。もう、あなた達が愛したレビアタンは居ないんです。だから、もう、堕落しなくて良いんだと思います。私が変わったんですから、小五郎ちゃんも変わって良いと思うんです。だから……』
 レビアタンの声が震えていた。
『我が君、お心づかい、本当に嬉しく思います。本当に愛してくださっているんだと思い、胸が高鳴りました。でも、私は堕落を解消するつもりはありません』
『どうして? 地獄におちるのよ!』
『それは、我が君、あなたを愛しているからです。今の我が君は、姿も、性格もお変わりになられた。しゃべり方も変わられましたね。私が愛した我が君の形はもう存在しないのかもしれません。
 ですが、あなたの本質はお変わりになられておりません。あなたの本質はは今でも私の愛したレビアタン様です。あなた様を裏切り、一人で極楽浄土に寂しく浮上するぐらいなら、あなた様と一緒に、地獄に堕ちましょう。それが私の願いです』
『小五郎ちゃん……。すごく嬉しい、だけど、考え直して。もうあの頃のレビアタンに戻って、私があなたに優しい顔を見せる事は無いのよ。綺麗な想い出を抱いて、ずっとずっと生きていて、そして永遠に地獄で苦しむのよ。それでもいいの?』
『たまに、地獄で顔を見せていただければ。何万年かに一度でも、ほほえみかけていただければ。いえ、贅沢ですね、我が君と同じ地獄に居るだけで、たぶん、私は心和み、地獄の窯の底で平穏に生きていけます。それが、私の願いです』
『バカッ!! 小五郎ちゃんのバカッ!! いい、今でなくていいの、ずっと後、死ぬ間際で良いから仏とかに帰依しなさいっ!! いいわねっ!!』
『つつしんでお断りいたします、我が君』
 ぐううっ! とレビアタンの泣き声が聞こえた。
『切る。さよならっ! 小五郎ちゃんっ!!」
『お声を聞けて幸せでした。ありがとうございます。我が君』
 ブツッと唐突に回線が切れた。

 バンの中がシンとしていた。
「す、すごい覚悟の人ですね……」
 レビアタンをそこまで愛していたんだ。
「……私の自慢の弟子だ。まったく、馬鹿めが……」
 魔女さんは吐き捨てるようにそう言った。
「レビアタン、回線を再び開きます、着信者、桂三郎」
「記録だけしておけ、これ以上聞かされると、私は声を上げて泣いてしまう」
 まったく感情を感じさせない固い声で魔女さんは言った。
「はい」
「まったく、不器用な生き物め」
「どっちがですか?」
 僕の問いに、魔女さんは視線を逸らし、苦笑いをした。
「両方だ」

 黒いバンに送ってもらって、僕は家に帰った。
 顔の痣を、お母さんが色々聞いて来たが適当に誤魔化して、夕食を食べた。
 ずっと、小五郎さんの事を考えていた。
 地獄に堕ちる事も厭わないぐらいの愛情は凄いと思った。
 敗北感があって、初めて、僕は自分がレビィが好きになりかけている事を知った。
 でも、僕は小五郎さんには、なれないだろうと思った。
 ガルガリンを好きになったほうが簡単なんだと思った。
 正しい道、正義の道、神への道はどこまでも高く遠く続いていて、死後も天国で楽しく会話できるだろう。その関係は永遠に続き、栄光につつまれて、幸福で幾重にもまとわれた道だ。
 レビアタンに恋をするなんて間違いだ、彼女と一緒に行く時間は短くて、閃光のようにはかない。奈落への落下であり、堕落し、みんなに石を投げられ、そして、肝心のレビアタンは形を変え、僕の側から消えていく。奈落の底で一人想い出を抱いて苦しむのだ。
 好きになってはいけないんだ。
 強情を張るほどに気持ちが大きくなる前に、しぼませて消すのが一番いい。
 恋を予防して、気持ちをガルガリンに向けよう。
 彼女は無垢で純粋で、そして無害だ。
 絶対にその方が良い。
 僕は小五郎さんにはなれないのだから……。

「文ちゃーん、お電話よー、あー、レビィちゃんから」
 僕は玄関に行って、電話を受けとった。
 お母さんは、なんか渋い顔をして僕を見ていた。
「もしもし?」
『あ、レビアタンです……。今いいですか?』
 なんだかレビィの声が少しかすれていた。
 沢山泣いたのかな。
「何用?」
『ようは……無いんだけど……。吉田くんの、声が、今、すごく、聞きたくなったの。何か……お話しして……』
 何を話して良いのか解らなかった。
 どう慰めたら良いのか。いや、その前に慰めるべきなのかどうかすら、僕には解らない。
 解らないので、しかたがないので、つっこむことにした。
「あのさ、お小遣い五千円では携帯電話を持ち支えられないと思うけど」
『ふえええっ!! 携帯電話代もお小遣いからなのーっ!!』
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by sakananovel | 2007-12-06 09:37 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【14】 レビアタン

 マグネシウムの粉末に火をつけると、もの凄い勢いで光を出して発火する。
 その発火と同じぐらい早く熱く猛々しい怒りが、僕の中に燃え広がった。
 なんでかは解らない。
 石川がレビアタンのおっぱいを見たのに嫉妬したのかもしれない。
 性的な事を言うけど、本当はレビアタンはそんな事をしない良い子だって、根拠無く信じていて、それが裏切られたから怒ったのかもしれない。
 理由は判然としないけど、怒り狂って僕は全速力で駆け出し、石川に向かって拳を突き出した。
 石川は片手で僕の拳を止めた。
「なんだよっ! てめえっ! 関係ねえだろっ!!」
「ふ、ふさけんな、いしかわっ!!」
 僕は激怒のあまり無茶苦茶に手足を振り回した。
「うぜえっ!!」
 石川の拳が僕の頬に入った。
 鼻の奥がきなくさくなって、ぬるりと血の味が広がった。
「ちくしょうっ! ちくしょうっ!」
 手足をふりまわすけど、石川には一発も当たらない。
 何発もパンチの衝撃が僕の顔や腹や肩に打ち当たる。
「や、やめて~、石川君、吉田君~」
「ふさけんなっ! てめえっ、なんの権利があって、俺とレビィちゃんの楽しみをじゃますんだよっ!」
 ゴンゴン殴られた。
 顔が真っ赤に熱い。
 怒りだけが僕を動かしていた。
「石川君やめてよっ!」
 レビアタンが懇願した。
 それが悔しくて、悲しくて、僕は石川の腹にパンチを撃ち込んだ。
 一発撃ち込むたびに、十発ほど返された。
「だいたい気にいらねえんだよ、お前はっ! 弱い癖につっぱりやがってっ!」
 痛くて気が遠くなる。
 体に力が入らない。
「死ねっ、てめえ、吉田っ!」
 ガンガン衝撃だけが体に伝わる。
 壁が顔に当たってる。
 とおもったら、ざらざらで地面だった。
 腹に石川の蹴りが入った。
 もの凄く痛い。
「やめてったら、やめてっ!」
「レビィちゃん、こいつを痛めつけるのやめてほしいか?」
「やめて、おねがいっ!」
「じゃあ、スカートをめくってパンツを下ろしな、そうしたらやめてやる」
「いしかわっ!」
 僕ははね起きた。
 てめえっふさけんなっ!!
 ガンッとアゴに衝撃がきて、また僕は地面に激突した。
「おぱんつ下ろしたらやめてやるよ、どうだよ」
 レビアタンは黙り込んだ。
「必要ないっ! そんなの駄目だレビィッ」
「うるせえっ!!」
 ドカドカと蹴られた。
「石川君乱暴をやめなさい……」
「へっ!」
 石川が鼻で笑った。
「……」
「……」
 攻撃が来なかった。
 石川が怪訝な顔で、半端な格好で止まっていた。
 なんだ?
「土下座して、吉田君にあやまって」
「ふ、ふざけんな……。え?」
 石川がかがみ込む姿勢を取った。
「な、なんだ?」
 なんだ?
「ま、魔法使ったのか?」
「ちがうよ」
「や、やめろ、なんだこれ? 体がっ!」
 石川が正座し、土下座のポーズを取った。
「石川君はもう、堕落したの」
「堕落?」
「魂はもう私の物……。悪魔と契約したのよ」
「け、契約ってなんだよ?」
「おっぱいみせてくれたら何でもするって言ったでしょ。私はおっぱいを見せたわ。魂を貰う契約が完了したのよ」
「ば、馬鹿な、おっぱいごときで……」
「額を地面にこすりつけて、吉田君にあやまりなさい」
 僕は立ち上がった。
「レビィっ! おまえっ!」
「ぐ、ぐううっ!」
 石川は額を地面にこすりつけていた。
「やめろっ! レビィッ!!」
「う、うそだろレビィちゃん、なんかの、魔法で、その、契約なんて……」
「契約は行使されたわ。あなたは私の奴隷よ。永遠にね」
「レビィッ!!」
 僕はレビアタンの胸ぐらを掴んだ。
 レビアタンは僕の手に自分の手をつけた。
 すこし、レビアタンの手が震えていた。
「吉田くん、勘違い、してるんじゃないかな。私は悪魔なんだよ」
「ふざけんなっ! おっぱい見せただけで、永遠にお前の奴隷なのかよっ!」
「うん、そうだよ」
 レビアタンは辛そうな目で僕を見た。
「一生どころか、死後も地獄行きだよ。永遠に地の底で苦しむの」
「そ、そんなっ!」
 石川が涙声を出していた。
「おまえっ!」
「契約に質とか関係ないんだ。悪魔に願望を叶えて貰った、それだけで、良いんだよ。契約完了で堕落なんだ。吉田くん。これがね、私のお仕事なんだよ」
「誰かを堕落させて、レビィは楽しいのかよっ!」
「楽しいよ。すっごく。綺麗な物が汚れて壊れて行くの。それを一緒に見守るの。すごい楽しいよ。楽しくて気持ちよくて、嬉しい……」
 欲情したような目で、レビィは僕を見る。
 辛いような色、楽しいような色、悲しいような色。沢山の思いの色が複雑に絡み合い、深い海の紺の色になっていた。
「終わりがあるの。堕落しきったらそこで終わりなの。でもね、落ちる限界がある分、激しくて、楽しくて、喜びがつよいのよ」
「レビィッ!」
 僕はレビアタンの制服の胸ぐらを絞り揺すった。
 壊れた人形のようにレビアタンの頭がぐらぐらと揺れた。
 彼女は陶酔するかのように毒のまざった言葉を紡ぐ。
「ガルガちゃんと人との関係は永遠で、共に高く昇っていくの。私と人の関係は、落ちるの。底があって、有限だけど、強くて激しくて、楽しいよ」
 僕はレビアタンの頬を打った。
「そんなんで嬉しいのかっ!! もっと自分を大事にしなくていいのかっ!」
「……しかたがないんだよ……」
 人とは違う存在なんだ。だから、人を堕落させるのが平気なんだ。
 そう、思ったけど、だけど、違和感があった。
 それは、レビアタンの表情だ。
「じゃあ、なんで、そんなに辛そうな顔してるんだよっ!!」
「……吉田くん、きらいになるから……。きっと」
「ああ、大嫌いだ、そんなレビィはっ!! だけど、だけどっ! 僕はっ!!}
 レビアタンは目を伏せた。
 涙が一粒、陶器のようにすべすべな彼女の頬を転がり落ちた。

「人を堕落させる仕事に、日本にきたのかレビィは」
「……、え? ち、ちがうけど?」
「統治の方法を知るために、女子中学生になったんだろ!」
「う、うん」
「女子中学生は人を堕落させる仕事をしないんだっ! だからやめろっ!」
 あれ? っという感じに、レビアタンは目線を宙にさまよわせた。
「そ、そうだけど、うーん」
「人を堕落させる能力を持った奴に、人は心を開かないっ! だから、レビィが堕落の仕事をすると、視察の仕事の方は失敗するんだっ!! だからやめろっ!!」
「……な、なんか、うんと、すごく説得力ある。うーん、正論な気がずんずんしてきます」
「だったらやめるんだ」
「わ、わかったよう。堕落の仕事はやめるよう。おっぱいは無償でみせるよ」
 いや、べつに見せなくてもいいから。
「じゃあ、石川の契約を解いてやれよ」
「と、解いてください~」
 石川は土下座したまま情けない声で言った。
 レビアタンは、困ったなあという感じに視線を逸らした。
「……あ、あの、ごめんね、私じゃ解けないの」
「「なんだってー!!!」」
 僕と石川が声を揃えてしまった。
「堕落した魂の保管は地獄の方で、そのー、ベリアル課長の管轄なのよう」
「管轄ちがうのっ!」
「うおおおん、俺はこのまま地獄行きなのかー」
「う、うん、で、そのー、契約をね、破棄した事、これまで一度も無くって」
「騙されたとしてもかっ!」
「だ、騙してないよう、ちゃんと、身も心も捧げるなら見せてあげるようって言ったから、正式契約だよう」
「そ、そんなあんまりだーー!」
「だ、大丈夫、色欲は、地獄の八圏で、永遠に糞便で一杯の溝の中をうろつき回って、時々私の同僚に銛でさされる程度だよ」
 石川がうおおおんと泣き出した。
「おっぱい見ただけで、そのもの凄い責め苦が永遠?」
「う、うん、まあ、その、永遠かなー」
「うおおお、おっぱい見ただけで、外人のマッチョと一緒に糞便の溝に沈められないとならないのかっ!! きっと、そこは日本語とか通じなくて、俺一人で、ひーん」
 外国の地獄だからなあ。
「大丈夫だよ、悪魔がこの次元を取れば、その、たぶん地続きになって、帰省とかできるかも」
 い、いや、うんこまみれの亡者に帰省とかされても。
「天使が取ったら?」
「そ、その時は、私たちと永遠に、地獄で楽しく暮らしましょうよ。と、ときどき差入れに行ってあげるよ。お、お菓子とか」
 石川は土下座の格好で、ふおおおと号泣していた。
「堕落したら、悔い改めても駄目なの?」
「う、うん、そのー、駄目なの、失敗を回復する手段ないんだよう」
 西洋の地獄は厳しいなあ、一発でアウトなんだ。
 東洋の地獄なら六道輪廻があるのに……。
 あれ?
 ……。
「石川、騙されたと思って、心に仏さまを描いてみろ」
「えええ?」
「描いたか」
「なにするのう?」
「心を込めて、『南無阿弥陀仏』って唱えろ」
「え? な、なみあみだぶつ……」
 石川が、がばっと立ち上がった。
「ああっ! 体が自由になったっ! うわああっ!!」
 喜びのあまり、石川はびょんびょんと空中へ何度も跳び上がった。
「えええええっ!」
 うわ、本当に効いた!
「こ、これで地獄行きも無しかっ!」
「た、たぶん、西方浄土行きだと思う」
「なんで、どうしてっ!」
「いや、南無阿弥陀仏をとなえれば、悪人でも救われるっていう信仰なんだ」
「すげーっ! すげえよ、それ、どこ?」
「じょ、浄土真宗」
「また、アミダブツッ! ずるいよっ! 人んちの獲物をー!」
「お、俺は仏に帰依するっ! もうあんな思いはこりごりだっ!」
 レビアタンがぷーっと脹れた。
「くそ、てめえ、レビィッ!」
 石川がレビアタンの方に拳を握って行こうとしたので、立ちふさがって止めた。
「お前も悪いだろ、レビィは仕事だったんだし」
「だ、だけど、邪悪だっ!」
「人を殴りつけて、やめて欲しかったらおパンツ脱げって請求するのは邪悪じゃないのかよ」
「そ、そうだよう」
「……。吉田、悪かった」
 石川はすなおに頭を下げた。
「そうだな、復讐なんて仏っぽくない。確かに俺も卑劣だった」
 なんか、石川らしくないなあ。
「俺は一度地獄から救われた身だから、今後の一生を一心に仏に帰依する事にする」
「そ、そうですか」
「俺は地獄に本当に落ちると思って、凄く怖かった。その悪徳契約が外れたんで、本当にこの世に仏が居るんだって解った」
「うん」
 僕も本当に阿弥陀様が居るとは思わなかった。
「仏はずるいよう」
「本当に仏が居るなら、俺はもうこれまでみたいないい加減な生き方は出来ない。一心不乱に仏に帰依する」
 なんか、石川から毒気が抜け、聖者みたいな澄んだ目で僕を見ていた。
 そ、そんなに糞便の溝に落とされるのが嫌だったのか。
「俺は今日からレビィ派を抜けて、吉田派……。いや、ちがう、俺はっ、阿弥陀派になるっ!」
「「はい?」」
「うおおおっ! 燃えてきたぜぇっ!! 吉田、一緒にクラスに仏の慈悲を広めようぜっ!!」
「いや、その、僕、派閥とか嫌いなんだけど」
「いや、違うっ! 吉田、お前は、あんなに弱いのに、レビィを庇って俺に掛かってきて、あんなに殴られたのに、自由を奪われた俺を許し、哀れんで、悪魔と対決してくれたっ!! お前こそがアミダッ!! お前こそが仏だっ!!」
「い、石川は改心しすぎだ」
「えー、私の派閥が、ガルガちゃんに負けちゃうよう~」
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by sakananovel | 2007-12-05 09:57 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【13】 イジメという魔物

 午後の授業はつつがなく終了した。
 さあ、下校下校。
「ごめんねえ、今日は吉田くんと一緒に帰ってあげられないの」
「ボクもだよ、ごめんね」
「かまわないさ! 派閥の把握は重要だよ、いっておいでよ!」
「……なんか、嬉しそうね吉田くん」
「悲しそうな顔をしなきゃ駄目だ」
「やだなあ、僕が開放感あふれ、せいせいしてるだなんて、誤解だよ。うわっはっはっは」
「ちえ、おぼえていろよ」
「月夜の晩ばかりじゃないのよう」
 捨てゼリフを残して天使と悪魔は派閥の生徒と共に、ぞろぞろと行ってしまった。
 一気に教室が無人になった。
 さあ、僕も帰ろう帰ろう。

 昇降口を出て、校門に向かう。
 風が爽やかで、天には綿のような雲が薄くかかっている。
 やあ、せいせいするなあ。
 急勾配の坂から下をのぞくと、レビアタングループが斎藤を先頭に駅の方に歩いていくのが見えた。そのうしろをゆっくりと黒いバンが走っている。
 ガルガリングループは教会についたようで、最後の胡桃が教会に入っていくのが見えた。
 僕は一人で坂を下りる。
 と、坂の途中で、石川と仲間が立っていた。
「おい、吉田」
 なんだかきな臭い匂いのする声の高さで、石川は僕を呼んだ。
「な、なんだよ」
 なんだ、こいつらレビアタンと一緒にいったんじゃないのか。
 石川が、ずいと歩み寄ってきて、僕を見下ろし睨みつけた。
「おめえよ、天使の方のグループに行けよ」
「なんだよ、そんなの僕の勝手だろ」
 ぐいっと、石川は僕の胸ぐらを掴むと引き上げるように力を入れた。
「そうやって、天使とレビィちゃんを天秤に掛けて、ごね得ねらってんだろ、やることが汚ねえよなっ」
「ごね得なんか狙ってないよ。レビィもガルガも間違ってると思うだけだ」
 石川は僕を振り回して、民家の塀にぶち当てた。
 どん、という衝撃が背中に走って、痛かった。
「なんでも良いから、お前は邪魔なんだよ、いいな、明日にはあの天使の方に行け、行かなかったら痛い目に合わせるからな」
「うるせえよ、嫌だって言ってるだろ」
「毎日、昼休みとか放課後に殴るぞ」
 僕の顔から血が引いて、なんだか貧血になったような気がした。
 恐怖が暗雲のようにむくむくと湧いてきた。
 手が震えていた。
 だが、恐怖と同時に、胸の奥に真っ赤なおき火のような怒りが湧いてきた。
 歯を噛みしめて、僕は石川を睨みつけた。
 こんな事は不当だ!
「おい、吉田がキレるぞ。こいつキレるとうるせえ」
「ちっ、警告したからな、あとでどうなろうとお前のせいだぞ」
 石川たちは行ってしまった。
 僕はぶるぶると肩を震わせて、怒りを噛みしめていた。
 ふざけるな、僕だって好きであいつらにまとわりつかれているわけじゃないんだ。
 ごね得とかいいやがってっ!
 悔し涙で視界が潤んでいた。
 僕は空を見上げて我慢した。

 大きく深呼吸をして気持ちを元に戻そうとした。
 まあまあ成功した。
 坂を下りて、ヤマザキデイリーストアまで降りて来ると、今度は讃岐広美が自動販売機の前に立っていた。
 なんだかガラス玉みたいな色の無い目で、讃岐は僕を見ていた。
「吉田君、おねがいがあるの」
「なんだよ……?」
「悪魔派閥に行ってくれない、私たちからガルガ様を取らないでほしいの」
「ガルガリンに言え、僕はしらない」
「ガルガ様と悪魔を手玉にとって、色々かまって貰って、さぞ楽しいでしょうね」
 お前も同じ事を言うのかよっ!
「傍で見るほど楽しくはないよ。レビィもガルガも可愛いからドキドキすることもあるけど、僕はあまりそういうの好きじゃない」
「欲張りで嘘つきで卑劣だわ、あなたは、悪魔がお似合いよ、地獄にいけばいいんだわ」
 なんだか、讃岐の顔が仮面のように強ばってるような気がした。
 狂信者の仮面なのかな。
「ガルガ様はあなたばかり気にして私たちを放っておかれるわ、放置される九十九匹の羊の気持ちなんか解らないでしょうね、あなたみたいな人には」
「嫉妬は大罪の一つじゃないのか?」
「嫉妬じゃないわよっ!! ふざけないでっ!!」
 ひい、金切り声で怒鳴られたよ。
「ガルガ様は素晴らしいお方なのよっ!! あんたみたいな人間の屑に関わってはいけないのっ!!」
 讃岐は顔を真っ赤にして怒鳴ると、はあはあと荒い息をついた。
「これ以上わたしたちの邪魔をするなら、神の御名の元に行動を起こしますからね。はやく悪魔派閥に行きなさい」
 吐き捨てるように言うと、讃岐は教会に向けて坂を駆け下りて行った。

 僕は溜息をついた。
 天使も悪魔も、人間を過激に駆り立てるものなのだなあ。
 石川の直接的な暴力も怖いけど、讃岐の狂信はもっと怖い感じだな。
 上履きを隠されたり、机にゴミを入れられたりする、陰湿なイジメ行動が始まりそうな予感がする。
 僕はぷはあと溜息を吐き出した。

 イジメが無くならない本当の訳を僕は知っている。
 イジメというのは、実は魔物の一種で一度生命が吹き込まれると、絶対に死なないからなんだ。
 どこかで、イジメの種が生まれる。
 それは大抵はほんの小さな事、笑っちゃうほど些細な事だったりする。
 ちょっと目立ちたがる奴とか、なんだか集団から浮く奴の背中にその種は取り付く。
 でも、それだけでは発芽はしない。
 誰かのちょっとした悪意で転がされて、それは発芽し、育っていく。
 でも誰がやっているという訳ではない。
 だから、誰にも止められない。

 親や先生が出てきて、色々言ったりすると、一時的には停まることがあるけど、大抵イジメは死んでいない。だって、僕らがやっているわけじゃなくて、それはコミュニケーションの輪の中に潜んでいる根毒のような物だから、僕らには責任が少ししか無く、ただ、純粋に悪意と無慈悲さと残酷さだけが脹らんでいき、育つ。
 死人が出ると一緒にイジメが死ぬ時もあるし、死人が出たら、一番イジメで目立っていた奴に取り付く事もある。
 イジメは魔物だから、どうにもならない。
 カウンセリングも、人の身になって見なさいと言う説教も、神への愛も、実はまったく効き目が無い。
 イジメの中心には、核となる子が居るのだけど、彼らがイジメかというとそうではない。彼らはイジメシステムの一部であって、本体は、僕たちみんなの中に分散されて少しずつある。
 それはきっと恐怖心とか、事なかれ主義とかの根っこの方にある、ほんの少しの猛毒を集めてできていて、知恵も意識もなく、目も耳もない気味の悪い魔物なんだ。
 奴は匂いを嗅いで、弱いと思った奴に噛みついて、死ぬまでその魂に絡みつく。
 みんなイジメに噛みつかれ絡みつかれる事を死ぬほど怖れている。
 石川か讃岐が悪意を転がすだけで、うちのクラスにイジメが生まれる。そして僕に噛みつき、からみつき、追いつめるだろう。
 それが嫌ならば、どちらかの派閥に入り、石川か讃岐にへつらうしかない。
 だが、僕はそれが出来ない。
 絶対にそんな事はしたくない。
 だから、僕は怯えながら孤独に一人で歩いていくしかない。
 胡桃の言うとおり、強情っぱりは大損で馬鹿な行為なのだ。

 駅の近くをぶらぶらした。
 ヨドバシカメラの四階で、新作ゲームのデモを見たり、有隣堂でライトノベルの新刊をチェックしたりする。
 ゲーセンに行って、ゲライロッツをプレイする。
 もう型遅れなだけど、僕はこのゲームが大好きで、大会にも出たことがある。
 しばらくパワードスーツに乗ってポリゴンで出来た空中を飛んだ。
 腕は落ちてないようで、ワンコインで五面クリアして僕は筐体から降りた。
 僕が満足に出来るのはゲライロッツと強情を張る事ぐらいだ。

 陸橋に立つ僕の足元の下を、轟音を立てて電車が通り過ぎていく。
 ああ、あれに乗って関西とかに行きたいなあ。
 この街は僕の住むべき街ではないという直感が働き、そして即座に、そんなことは無いのだ、たぶん大人になってもこの街にいて、幾つになっても、陸橋の上で、この街は僕の住むところではないと溜息をつくのだと、確定のように予感した。

 斎藤がHなのだが哲学的な事を、この前言った。
 奴はHな漫画を、なんとかして入手する事に命を掛けているんだが、H漫画は買って帰る時が一番楽しいのだそうだ。
 どんなに素晴らしいH漫画でも、読み始めると期待ほどは凄くなくて、最後には、ああ、お金を無駄にしたと、ちょっと悲しくなるんだそうだ。
 世界の全ての物は、みんなそうで、きっと石川も讃岐も、天使と悪魔と深く知り合う前だから、あんなに逆上したように期待してるのであって、たぶん、だんだんと幻滅していくのだろうなあと思う。
 どんな物でも買って開封する前が楽しいんだよ。 

 だから、きっと、僕にとっての夢の街なんか無いんだと思う。
 街を移動して、最初は素晴らしいと思った街も、きっとそのうち、日常となり、平凡が浸食し、そのうち、また、どこか夢の場所に行きたいなと思うのだろう。
 逃げ道なんかどこにも無くて、世界のどこにでもイジメは居て、弱い物の匂いをくんくんと嗅いでいるんだろう。
 そんな事を、陸橋の上で、線路の行く遠くを見ながら、夕暮れの光で真っ赤に染まりながら、ぼんやりと思っていた。

 東の方から紺色の夜がどんどんと渡ってきて、辺りが薄暗くなる。
 僕は家路につく。
 児童公園に差し掛かった時、公園の中に、石川とレビアタンの姿を見た。
 石川が熱心にレビアタンに何か言っていた。
 レビアタンが恥ずかしそうにセーラーの裾をめくっておっぱいを出した。

「いしかわああっ!!」
 僕は絶叫して児童公園に入り、石川目がけて全速力で駆け寄った。
 僕は憤怒の塊になり、拳を固く結んで前のめりになって駆けた。
 レビアタンが、ひゃっという声を出して、セーラーの裾を下ろした。
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by sakananovel | 2007-12-04 22:07 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【12】 天使の誘惑

 トイレからダッシュして、僕は孤高の男としての誇りをゲットした。
 いや、単に屋上に駆け上がっただけなんだけどさ。
 屋上にはベンチがあって、各学年のカップルなんかがいちゃついていた。
 僕はお気に入りの一畳ぐらいのコンクリートの出っ張りの上に陣取って、空を見上げ、ゆく雲を目で追う。
 友だちとわあわあしゃべるのも好きなんだけど、ときどき息がつまるような感じがして、たまにここで空をみる。
 金網に囲われた青い空は、僕たちを捉えた生け簀にも見える。
 下を見れば、信者をぞろぞろと引き連れたガルガリンが渡り廊下を図書室に向けて歩いていく姿がみえ、校庭にみんなと駆け出していくレビアタンが見えた。
 キャラ的には逆な感じなんだが、派閥に集まってきた生徒たちの集まりの色が、天使と悪魔の行動を決めているようだ。
 そう、どんなに力が強く、可愛く、性格が良くても、沢山あつまった人の圧力には敵わない。
 人の集団というものは時に、天使よりも正しく、悪魔よりも猛悪になることもある。
 その力に抗うのは、馬鹿としか言うほかはあるまい。
 ぼんやりと雲を見ながら、僕はそんな事を考えている。
 日が当たって温かいというか、ちょっと暑い。

 ふと、目を開けて、隣の校舎を見ると、窓の向こうにガルガリンの金髪頭が見えた。
 図書室だなあそこは。
 窓の向こうのガルガリンはむっとした顔でなんか言うと、いきなりセーラーの上着を脱ぎだした。
 なにやってんだ、あいつは。
 セーラー服を脱ぐと、下は真っ白なスリップで、ブラジャーも見えた。
 信者の女の子が口に手を当てて驚愕していた。
 僕も遠くから口に手を当てて驚愕した。
 ガルガリンは窓を乱暴に開けると、そこから飛び降りた。
「うわあっ!」
 と思わず声がでて、金網に手を付いてしまった。
 落ちながらガルガリンはこちらをみて、ニヤっと笑った。
 背中から鈍色の大きな羽が生えていた。
 ばさりと羽ばたくと、上半身スリップ姿のはしたない格好の天使が、僕の方に向かって上昇してきた。
 鈍い銀色の大きな翼は光を反射してキラキラ輝き、幻想的で凄く綺麗で、僕のような不信心者も、うはあと溜息をついてしまうほどの光景だった。
「みつけたぞ、よしだ、かんねんしてボクと遊ぶんだ」
 ガルガリンは屋上の金網の天辺に乗り、仁王立ちをして、そう宣言した。
 うへえ。
 屋上のカップルやら、ひなたぼっこ同好会の人々が、いきなり現れた、とんでもない格好の天使を見て恐れおののいた。
「て、天使よ」
「うわあ、綺麗~」
「お、降りてこい、馬鹿者」
 僕は声をかけ、手を差し出した。
 ガルガリンはフェンスから跳びあがり、はたはたと羽ばたき、ふんわり降りてきて、僕の手を優雅に取った。
 至近距離で見るガルガリンのスリップ姿は、もーなんといますか、その、肌の色が白くて鎖骨鎖骨、羽、という感じで頬が熱くなった。おっぱいはブラジャーが可哀想なぐらい無いな。ほとんど脹らんでいない。
「なんて格好なんだ」
「羽は実体なんで、上を脱がないとだめなんだ」
 そういってガルガリンはくるりと回った。
 肩胛骨の上辺りから、鈍色の羽が生えていて、光を反射してきらめき、風が僕の頬を撫でた。
 背中がすべすべで綺麗だなあ。
「は、恥ずかしくは無いのかよ」
「大丈夫だ、ボクはおっぱいが無いから性的なアピールがない! したがって、別に上半身裸でもなんら問題はないんだよ!」
 無いわけあるかー。
「よ、世の中には、その、ふくらんでないおっぱいを愛好する男性も、多々あってだな。そのような格好はとうぜん問題大ありなのだよ」
 屋上に居た、何割かの男子生徒が、拳を握りしめ、その通りだと言うかのように、赤面しながらうんうんと固く頷いていた。
「それは、変態だ。変態は天使に関係ないからボクはしらない。レビィにでもくれてやるよ」
「いいから……」
「うん?」
「服きろよっ! おまえっ!!」
 ああ、と笑って、ガルガリンは、羽をたたみ、もそもそと上着をつけた。
「これでいい?」
 ふう、なんか大汗をかいたよ。
「よしだって、おっぱい無い方が好きな、変態?」
 なんだか、凄く嬉しそうに赤面してガルガリンが聞いてきやがるのであった。
「牛のような巨大な乳房が大好き」
「だめだなあ、セックスアピールのある女体が好きだと天国にはいけないぞ、悔い改めるんだ」
「ほっといてくれ」
 ガルガリンは当然のように、よいしょっと言って、僕の隣りに座り込んだ。
「信者さんたちを放っておいて良いのか?」
「いいんだよ、放課後、教会でお喋りするから。それに身のある話しないしさ」
「しないの?」
「そー、自分がどんなに神様が好きかとか、天使様に会えて光栄で死んでしまいそうとか、神聖なる乙女のお話は清浄だけどワンパターンでつまんないよ」
「天使なんだから我慢しろよ」
「よしだとの会話の方が意外性があって面白いよ。ボクはよしだが好きだな」
 そう言うとガルガリンはにっこりと邪気が無い感じに微笑んだ。
 こいつめーーーー。
 僕は胸の奥がモキモキして、なんだか、色んな意味で困った。
「なんで、天使の癖に女性なんだ? 天使は無性じゃないのか?」
「いや、便利そうだから今回は女性だよ。どっちにでもなれるんだよ。日本各地を旅行してた頃は男性型だったよ」
「便利そう?」
「うん、思春期の少年よりも、思春期の少女の方が綺麗だし、みんなに愛されやすいかなって」
 さばさばと白状する奴だなあ。というか、そう言うことを気にしてないのか。
「ほいほい化けれるの?」
「ええい、狸や狐ではあるまいし、化けてるのではないよ。受肉といって、物質的変化だから、一週間ぐらい掛けて変身するんだよ」
「変な生き物だ」
「天使は生き物じゃないよ。ふわー、ここ良いねえ、あったかい」
 そういうと、ガルガリンはコンクリートの出っ張りの上に寝ころんで伸び上がって、目を閉じた。
 金髪が夏風を受けてふわふわと揺れていた。
 ほんとにもう、中世の天才絵師の油絵にでてきそうなぐらい綺麗だよなあ、こいつ。
 ガルガリンは薄く目を開いて、探るように手を動かして僕の手を取って、握った。
 細くて冷たい手だった。
 邪険にふりはらおうと思ったのだけど、なんか、それもなんだなあと思い返し、握り返したり。
「よしだの手あったかい」
「ガルガの手はちいさいな」
 なんだか、困った。ヤバイ。というか、へんな雰囲気にのまれている。
 手を振り払えなかったのが敗因のようで、なんだか、凄く、胸の奥でロマンチックが停まらないといいますかですね。この、初めての異性の肉体接触といいますか、その、どきまぎするような感じで、いやその、お困り様であるんです。
 ガルガリンの指がさわさわと僕の手を愛撫する感じで、ちえ、このアマ、薄く開いた目が笑ってやがると言いますか。僕は手を取られて途方にくれて、その、空を見上げたりしまして。
「思春期の女の子の体は面白いなあ。好きな人と手をつなぐだけで、こんなにもボクは幸福で一杯だよ……」
 小声で笑いを含んだ感じに言われて、幸福感ですか、そんなものはさっきから異様にむくむくと湧きだしておりまして、つうか、レビアタンでも割り込んでこの甘酸っぱくていたたまれない雰囲気をとっとと壊してくれないかというような、反作用な気持ちも湧いて来たりする今日この頃だったりしちゃったり。
「よっと」
 と言って、ガルガリンは起きあがり、僕の方へしなだれかかって、肩に小さいあごを乗せたりしてですね。その腕にしなやかな体の感触が伝わっていまして。
「て、天使がそんな、よ、よいのか?」
「いいんだ。仲良しなのは神のご意志だ。悪いことじゃないよ……」
 などと、耳に吐息のような小声をささやかれたりして。いやいや、ちょっと困りましたねえ。どうですか奥さん、という感じで、赤々とした灼熱な塊が胸の奥からどっきんどっきんとどんどん最接近してきて。というか、体をすりつけるなっ!
「いいよね、心地よい感じ」
「に、肉欲は罪ではないのか」
「肉欲は罪だけど、愛はおしみなく、だよ……」
 と、そこへ予鈴がなった。
「あ、予鈴だ予鈴だ、さあ、教室にもどらなければ」
 僕はコンクリートの出っ張りから、ぴょんと勢いをつけて飛び降りた。
「んんー、なんだよ、いくじなし」
「だまれ、エロ天使」
「エロじゃないよ、愛だよ愛っ!」
 僕は逃げるように、屋上から立ち去った。

「むー、吉田君の体からガルガちゃんの匂いがする。なんかエロスあふれる事した~」
 鼻が効くな、悪魔なのに。
「し、してません」
「身を寄せ合って慰めあったんだ」
「この、泥棒猫っ!」
 なんでレビアタンは泥棒猫と言うときに、ちょっと嬉しそうなのだろうか。
 泥棒猫と言うのが楽しいだけか?
「中学生は性行為しちゃいけないんだよ、法律違反だよ」
「あれ、そうなの? 結婚まで純潔を守るのか、すばらしい法律だなあ」
「得意技の半分が禁止されたみたいだよう、困ってるの」
 レビアタンは、そんな攻撃を僕に仕掛けようとしていたのかよ。
「ふふーん、昼休みの間に大分点数稼いだよ、もう、よしだはボクにメロメロなのさ」
「そんなでもありません」
「くやし~~。きーー」
 ハンカチを噛むな、どこのドラマ女優だ、おまえは。
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by sakananovel | 2007-12-04 01:39 | 天使と悪魔の円舞

れびあたん

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レビアタン、怪獣モード。
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by sakananovel | 2007-12-03 00:27 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【11】 斎藤という漢

 さて、お昼休みである。
 僕はなんか憮然とした表情のレビアタンを置いて、教室を出た。
 今日は水曜日、パンを買う日と決めてある。
 パン屋のおねえさんは昇降口でパンの箱を重ねて売りさばくのだった。
「吉田もパン?」
 斎藤が追いついてきてそう言った。
「そうだよ」

 斎藤としあきという、この男は、クラスでも有数のエロ星人で、頭の中にHな事しか詰まっていない。
 そんな彼をクラスの男子は、エロ仙人と呼び、怖れ、敬い、尊敬の念を欠かさない。
「吉田はいいよなあ、強情はっていたら、ガルガちゃんとレビィちゃんにモテモテだよ」
「意外に辛いぞ」
「いいじゃんよう、太陽に比すべきほどの美少女二人が吉田の関心を惹こうと、大激突だ!! 男子の本懐という他はあるまいよっ!」
「そうかい? そういや、斎藤はレビィ派だよな」
「そうともっ!! たしかにハツラツとしたガルガちゃんも良い、だが、だが、なんとも言えぬお色気のレビィちゃんこそ、僕の理想、僕の栄光、僕の愛の到達点なんだっ!」
 斎藤は拳を振るって力説した。
 僕らは階段を、たかたかっと音を立て降りていく。
「やっぱ、レビィだと、おっぱい見せて貰えそうだから?」
「何を言ってるんだ、吉田っ! 君がそんな事を言う男だとは思ってもいなかったよ!」
 おお、エロ仙人の癖に純情な。
 僕はちょっと斎藤を見直した。
「おっぱいだけじゃないよ! おぱんつ、そして、おぱんつの中身の探究こそ、男子中学生たる我々の使命であり、目的なんだよっ!」
 見直すのを撤回。やっぱ爽快なぐらい、斎藤はエロ仙人だよ。
「なにを軽蔑の眼差しでみているんだ、同志吉田っ! 君だって、おっぱい、おぱんつ、おぱんつの中身は気になっているだろうっ! 気取るのはよしたまえっ!!」
「いや、気になるけどさ、斎藤ほどじゃないと思うよ」
「なにをいう、すべからく、男子中学生は女子の……」
 斎藤が言葉を切ったので、前を向くと、胡桃がパンの袋をぶらぶらさせて階段を上がってくる所だった。
「胡桃もパンか、混んでる?」
「うん、早く行かないと無くなるよ。あ、斎藤君、あなた何でレビィ派なの? 成績良いのに」
「あ、その……。僕はですね、あのー」
「みんな驚いてたよ」
 みんなじゃない、女子だけだ。男子は斎藤の正体を知ってるからなあ。
「い、いやその、自由なですね、クラスの運営という物に、僕は、心をひかれまして、その」
 赤面しながら斎藤はへどもど言っていた。
 斎藤がエロ仙人なのに、汚らしい感じとか、げすっぽい感じが無く、男子全員に好かれているのは、奴が女子と話すと、交流が出来ないほど、赤面し上がるせいなのだ。
「レビィ派の子たちと話あわないでしょ、ガルガ派においでよ」
「い、いや、それはその、僕としては、えーとですね」
「人の自由じゃんよ、というか、胡桃はそうやって切り崩し工作してんのか?」
「そーよ、どっちかに決まれば、強情張ってる人がクラスで一人浮かなくてすむしね」
「そりゃどうも」
 軽く礼を言ったが、実は胡桃がいつも気を回してくれるので、一年の頃から凄く助かっている。
 でも、照れくさいので本格的な礼を言ったことはない。
「じゃ、斎藤君、考えておいてねー」
「は、はいー」
 胡桃は、ぱたぱたと階段を上がって行ってしまった。
 斎藤は胸を押さえ、息を整えていた。
「芳城さんは素敵だな。吉田もそう思うだろう」
「そうかもね」
「胸が少し大きくなっているようだ、巨乳番付を一段上げておかねば」
 そういうと、斎藤は秘密メモに、なにやら書き足していた。

「やっぱり土下座かな」
「土下座?」
「土下座をして、おぱんつの中身を見せてくださいとお願いすれば、どうか!」
 いや、どうかと言われても。
 レビアタンだと見せてくれそうで怖いなあ。
「見るだけでいいのか?」
「ふおおおおっ! さすが、吉田だっ! たしかに見るだけでは、仕方が無いかも知れない、だが、それを考えるだけで僕の心は大嵐のように波うち、体がわななくよ」
 といって、斎藤は前屈みになって歩いた。
 うむ、科学では解明できない力によって、僕もちょっと前屈みだ。
 前屈みで昇降口まで行くと、パン屋さんの前で生徒が群を成していた。
 僕は一番後ろにならび、順番を待った。
「はいはい、押さないのー。はい、カツサンドとメロンパンと苺牛乳の子、三百五十円よ」
 パン屋のお姉さんが元気よく生徒を捌いていく。
 ほどなく僕の番が来たので、カツサンド、マヨコーンパン、牛乳を選んで差し出した。
「はい、三百五十円よ」
 僕は五百円玉を出して、お釣りを貰い、紙袋に入れたパンを受けとった。
 斎藤もほどなく紙袋を手に列を離れてきた。
「斎藤は何買ったの?」
「メロンパン、チョコケーキパン、甘食だよ」
「甘いの好きだな、斎藤は」
「やはり基本は菓子パンだよ」
「彼女を作って、お弁当作ってもらえよ」
「いいねえっ!! 手作りお弁当っ!! それは人類の夢だねっ!!」
 話を上手く持って行けば、天使と悪魔の手作りお弁当を食べれそうだが……。
 何を喰わされるか解らないから、それはやめよう。二人とも料理とかしなさそうだし。
「僕の未来の彼女が、僕の為にお弁当を作ってくれるんだよ! それも、裸エプロンで!!」
 裸エプロンはその場で見ないとつまらないと思うのですが。
「たまらないね、人類の叡智が全てそこにはあるよ!」
 ふはーふはーと鼻息も荒いエロ仙人と共に、僕は教室にもどった。

「ありゃ?」
 昼ご飯を食べるグループが昨日と違っていた。
 レビアタン派とガルガリン派に別れて机を寄せていた。
「ぼ、僕と一緒に食べよう」
 斎藤がそう申し出てくれた。
「斎藤こっちこいよ」
「じゃあ、吉田も一緒に」
「ヨブは駄目だ、レビィ派じゃないもん」
「いいよ、斎藤、行ってきな、派閥は大事だ」
「そ、そうかい?」
 レビアタンが立ち上がった。
「じゃあ、私と一緒に食べようよ、吉田君」
「あ、ずるいぞ、ボクと……」
「男子と一緒に食べるなんて嫌よ」
 ガルガリン派の女子がポツリとつぶやいた。
「男子と女子は一緒に食べないルールなんだ、わるいな、レビィ、ガルガ」
「そ、そうなのぅ?」
「変なルールだなあ」
 とりあえす、一人で食べよう。
 僕は強情を張るたちなので、時々こういう事がある。
 まあ、別に良いって事だ。慣れてるしね。
 胡桃がこっちの方をみて、馬鹿ねと言うように肩をすくめた。

 もそもそとパンを食べ、牛乳を飲んだ。
 一人で昼食を食べるのはひさしぶりだな。
 クラスを見まわすと、ガルガリンとレビアタンを中心にグループが別れている感じでだった。
 ガルガリンが快活に笑いサンドイッチをぱくつき、レビアタンが微笑みながら、お重のお弁当を食べていた。
 そのうち、天使と悪魔の二人も大事な友だちが出来て、僕への興味なんか無くなるだろう。
 世の中というのはそういうものなのだ。

「ごちそうさまっ! ご飯終わりっ!」
 と言ってガルガリンが立ち上がった。
「ああ、ガルガ様、お昼休みは図書室で、ありがたいお話をもうすこし聞かせてくださいませんか?」
 讃岐広美が十字を切ってそういった。讃岐の家はクリスチャンだったのかな?
「やだ、ボクはよしだをエリコの街のように陥落させねばならないんだ」
 無理に陥落させなくてもさあ。
「ヨブは宇宙一強情ですよ、それよりも、私たち、神を愛する羊たちをお導きください」
「うーと、あれだ、迷える子羊が一頭出たときには、九十九匹を放置して、御子は探しに行くんだ」
「神の寛容と慈悲に心うたれます、では、せめて、放課後にガルガリンさまを讃える子羊たちの為に、お時間を割いてはいただけませんか」
「わかったよ、みんな教会にあそびにおいで」
 ガルガファンのお嬢さんがたから喜びの嬌声が上がった。

「ごちそうさまですー」
 レビアタンが御重箱を風呂敷に包んで仕舞った。
「レビィちゃん、うちの派閥もガルガ派に負けずに放課後、総決起集会を開こうぜ」
 石川が快活に提案した。
「ファミレスで、愉快に過ごそうよ」
 そうじゃそうじゃとレビィ派の面々が声を上げた。
「うーん、そうねえ、楽しいかも~。いいようっ!」
 レビィファンの皆さんがぎゃーぎゃー喜んだ。

ガルガリンが、歩いてきて僕の前に座った。
「よ、迷える子羊」
「食事中だ、あっちいけ」
「ほんっとに、よしだはありがたみをしらないよなあ。早く神の御心に触れ、回心し、随喜の涙を流すんだ」
「ながさん」
 レビアタンがやって来て、自分の椅子を動かして、僕の横に座った。
「やっぱ悪魔よね、たのしいよう。おっぱいとか見ほうだいだよ」
 そんな特典は、心ひかれるけど、やだなあ。
「もー、うるさいよ。君たちは自派閥の掌握をまず第一に考えなさい」
 なんだか、ガルガ派からも、レビィ派からも、憎しみと羨望の視線がばりばり来ていて、かなわん。
 僕は牛乳を飲み干して、ごちそうさまである。
 僕が立ち上がるとガルガリンもレビアタンも立ち上がった。
「どこいくんだ? 校庭?」
「中庭でお散歩~?」
「ご不浄。ついてくんな」
「「むーー」」
 僕はトイレに向かって歩んだ。
 迷える一匹の子羊には迷う訳がある。
 勝手に連れ戻して欲しくないし、構っても欲しくない。
 九十九匹の事を考えろでございますよ。アーメン。
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by sakananovel | 2007-12-02 17:53 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【10】 お小遣い戦争


 まだ、お小遣いについて、ぶつぶつ言っているガルガリンと一緒に歩き出した。
 神格とかについては棚上げすることにした。
 考えてもしょうがない。
 迂回する必要がなくなったので、学校前の急坂を上り始める。
 なぜ、この坂は、こんなに急勾配なのだろうか。
 きっと外敵が攻めてきた時の防衛のため、学校は丘の天辺に位置してるのだな。とか妄想が浮かんでくる。
 この坂のおかげで浜崎第四中学校の生徒はみんな健脚なのだ。
「おさきにー」
 芳城胡桃が自転車で坂をぐいぐいと上っていった。
「うわ、脚力あるなあ」
「動力補助自転車だよ」
「あ、そうか、人間界は便利な物が多いよね」
 普通の自転車の子は、みんな坂を押して上っている。
 そして、人の流れに逆らい、坂を駆け下ってくる女子がいた。
「うわぁぁぁあぁぁっ!」
 レビアタンであった。
 僕はガルガリンの肩を押して、位置を入れ替わった。
「ふえ?」
「いやああっ! だめーっ! 吉田くん、受け止めてー」
 僕は受け止めない。
 なんだか鈍い音が朝の爽やかな通学路に鳴り響いて、ガルガリンとレビアタンが激突したショックで一体となり、坂をごろごろと下って行った。
 滑落方向で歩いていた、柔道部っぽい体の大きい生徒が、慌てて二人を受け止めてとめた。
 二人はびょんと跳ね上がり、体の大きい生徒さんにお礼も言わずにこちらへ駆け出して来た。
 かわりに僕が体の大きい生徒さんに、すんません、と頭を下げておいた。
「吉田くんっ!!」
「よしだ~っ!}
「女の子が坂道を駆け下りてきたら、受け止めて一緒に転んでキスするのがお約束でしょっ!」
「下まで一緒に転がったら、人格が入れ替わってしまう恐れがあるからなあ」
「天使を落下防止クッションに使う奴があるかっ!」
「人間より天使の方が頑丈そうだからだ」
 体の大きい生徒さんが、横を笑いながら通り過ぎたので、僕は天使と悪魔の頭を掴んで一礼させた。
「ありがとうございます」
「ありがとうです~」
「あ、ありがとう」
「いや、気にしないでくれたまえよ」
 体のでかい生徒さんは、ははは、と笑って行ってしまった。

「それよりもずるいよっ! なんで吉田くんは、ガルガちゃんと一緒に登校してるのっ!」
 レビアタンは腕をふり猛然と怒った。
「よしだはボクの事が好きなんだよ」
 けけけ、とガルガリンは笑った。
「この泥棒猫っ!」
「レビィは車で登校したんじゃないのか?」
「学校についたら、吉田君と一緒に登校すれば良かったって気がついてー、校門を出たら、吉田くんとガルガちゃんがイチャイチャしてるのが見えて、思わず駆け出しちゃったの。そしたら加速して停まらなくてー、怖かった。わ、私は悪くないの、悪いのは一緒に登校しようって、誘いにこない吉田君よっ!」
 そう言ってレビアタンは僕に人差し指を突きつけて糾弾した。
「理不尽な事をいうなよ」
「恋する少女は理不尽なのよ」
 あほくさいので、僕は坂上りを再開した。
「まってよう」
「よしだはドライで、クールだなあ」

 三人で坂を上がる。
 せっかく車で坂の上まで上がったのに、駆け降りてくるとは、レビアタンは馬鹿だなあと思ったりした。
「疲れちゃいました、ちょっと茶店で休憩いたしましょう」
 レビアタンがヤマザキデイリーストアを指さした。あれはだんじて茶店ではない。
 ガルガリンが、足を止め、ジュースの自動販売機を見た。
「駄目!」
 と、言って、彼女は、また歩き出した。
「ええ、なんでよう」
「今度の日曜日に、よしだとデートする為に、お金が使えないんだ」
 おお、明日の為に、今日を我慢するのかっ! さすがは天使だ、偉いな。
「ぷぷっ、デート代も無いの?」
「よしだが、中学生と同じ条件で生活しないと、気持ちがわからないと言うんだ」
「ほえ」
「だから、お小遣いも中学生的になった。ボクは今、修道士よりも清貧な気持ちだよ」
「……、中学生らしいお小遣いって幾らぐらいなの?」
「五千円が相場らしいよ」
「ええーっ!! 嘘でしょ、それじゃお洋服も買えないわよっ!」
「レビィは月に幾ら貰ってるんだ?」
「四十六万円だよう」
 どこの会社の重役だ、お前は。
 それよりも、その莫大な金はいったいどこから湧きだしているんだ。
「貰いすぎだっ!」
「えー、足りないぐらいだよ」
「ボクは、よしだのアドバイスに従い、この地の中学生の気持ちを実感すべく、清貧に甘んじ、苦行に満ちた生活を送るつもりだよ」
 ガルガリンは誇らしげにそう宣言した。
「えらいえらい」
 僕はガルガリンの頭を撫でてやった。
 ガルガリンは、えへへと笑って、頬を赤らめた。
 レビアタンは奥歯を噛みしめ、肩をぶるぶる震わせていた。
「わ、私もっ!!」
 僕はニヤニヤしながら、レビアタンを見た。
 苦い物を飲み込むような表情で彼女は唸っていた。
「うーうー、私も中学生らしく、その……、二十三万で我慢するようっ!」
 さすがに一気に五千円まで落とすのは抵抗があるようだ。
「ねえねえ、お金の掛からないデートってどんなの?」
「それを考えるのが女子中学生の醍醐味なんだ」
「うーうー」
 レビアタンは両手をぶんぶんと振っていた。
「安いデートだったら、よしだも一緒にいってくれるかなあ?」
「ああ、お金の掛からないデートならいいよ」
 本当は良くないが、まあ、レビアタンをはめる為だ。
 どっちにしろ、二人の財政が縮小すれば、デートのお誘いも、ほとんど来なくなるだろうから、問題は無い。
 ガルガリンもレビアタンも、お金が無いという本当の意味がわかってない。
「もーっ!! わ、私も、月五千円の極貧生活をするようっ!!」
 レビアタンの目に悔し涙が浮かんでいた。
 しめしめ。
「そうか、えらいな、レビィ」
 僕はレビアタンの頭を撫でてやった。
 ガルガリンがニヤっと笑って、親指を上げた。
「だから、私ともデートしてくれる?」
「ああ、いいとも」
 レビアタンの顔が花のようにほころんだ。
「一人ずつでだよ」
「えー、三人一緒でいいだろ」
「だめだよう、三人で遊びに行くのはデートじゃないよう」
 まあ、それくらいは譲歩しましょうか。

 教室に入ったら、天使と悪魔の二人は芳城胡桃を取り囲んで質問攻めにした。
「安いデートコースを教えて!」
「教えて教えて」
「え、え、なに?」
「勝負が掛かってるんだよう、予算は五千円でー」
 五千円使い切ったら、お前は今月どうやって暮らすのだ。
「胡桃は、いつもどこへ男の子とデートに行くんだ」
「い、行ったことないわよ」
 胡桃は狼狽していた。
 鋼鉄委員長が動揺する姿は初めて見たな。
「胡桃ちゃん、もっと青春を謳歌しないとだめだよ」
 でっかいお世話だろう。
「ちょ、ちょっと、話を整理して、よくわからないよ」
「よしだとデートしたいんだけど、お小遣いが月五千円になっちゃったので、レストランとか、ホテルのプールとか、お金の掛かるデートができなくなったんだ」
「吉田くんによると、中学生らしいお金の掛からないデートがあるらしいんだけど、胡桃ちゃんは知らないかなって思ってー」
「ああ、なるほど、悪知恵はたらくなあ」
 胡桃が笑いを含んだ目で、こっちを見た。
 僕が親指を突き出すと、胡桃は薄笑いを浮かべて、そっぽを向いた。
「胡桃は月に幾らで暮らしてるんだ?」
「私のお小遣いは二千円だよ」
「「ええーっ!!」」
 天使と悪魔は雷に打たれたような表情を浮かべて、大驚愕した。
「映画みたら終わりじゃないかっ!」
「おぱんつ一枚で終わりだようっ!」
 レビアタンは、二千円もするおぱんつを履いているのか。
「欲しい物はそこから貯蓄して買うのか! 日本の中学生というのはどこまで凄い計画経済なんだ!」
「おぱんつ買えないでどうするの? ときどきノーパン?」
 おぱんつから離れろ、悪魔め。
「着る物は別枠で買って貰えるのよ。参考書とか、文房具とか学業に必要なものもね」
「そうだったのかー! やったー、純金のシャーペンを買おう!」
「シャネルのおぱんつが買える~!」
 無駄遣いすんなよ、お前ら。
「パソコンとか、電動補助自転車とか、高い物は?」
「クリスマスか、お誕生日に買って貰えるわよ」
「誕生日……」
「私は、世界が出来てから五日目に生まれたから、毎週金曜日がお誕生日ね!」
「一月五日だろう」
「じゃあ、ボクのお誕生日は一月一日かな?」
「あら……」
 胡桃が気の毒そうに眉をひそめた。
「な、なに? この誕生日まずいの?」
「な、なんで、そんなに気の毒そうな顔なのよう?」
「十二月生まれと一月生まれは大損なんだ」
「「どうしてっ!?」」
 一斉に二人が僕を見た。
「十二月はクリスマスと、お誕生日が合体で、大物の機会が一回減るの。一月はお正月でね、お年玉があるので、それで好きな物買いなさいって事に……」
「「お年玉ってなにっ!!」」
 一斉に二人が胡桃を見た。
「一年に一度、子供に大金を上げる行事だ」
「なんだとー、だから中学生の一ヶ月の賃金はこんなに低いのかっ!」
 お小遣いは賃金ではないぞ。
「まとめて大金が貰える日があるんだー」
「日本人とはすごい民族だなあ。子供に貧乏をさせて、お金を計画的に運用させることを学ばさせるのだね」
「えらいねえ~」
 天使と悪魔は感極まったように黙り込んだ。
「あ、で、お安いデートなんだけどぅ」
「図書館とか、公園とかね、駅でぶらぶらすると結構お金かかるわよ」
「と、図書館? 一緒に本読むの?」
「私、本とか読みたくない~」
「図書館で一緒に勉強したり」
「勉強はデートじゃないよっ!」
「好きな人と一緒にいれば、どこでも楽しい。……らしいわよ」
「公園行ってどうするの?」
「散歩したり、ベンチでお話ししたり、白鳥に麩を投げつけたり」
「面白くなさそうだよ」
「予算的にお食事は無理よねえ?」
「ハンバーガーでも結構痛いよ、500円だと1/10もって行かれる」
「お金無いんだから、家に帰って食べればいいのよ」
「じゃあ、セックスはしないの?」
 レビアタンがそう言うと、教室が水を打ったようにシーンとなった。
 いぶかしげな感じでガルガリンが辺りを見まわした。
「……」
 胡桃が頬を赤らめ、口をつぐんで余所を見ていた。
「……」
 僕は外をみた、ああ良い天気だなあ。
「あ、あれー?」
 レビアタンがキョロキョロしていた。
「あ、先生来た」
 僕たちは席につき、今日の授業が始まった。
 レビアタンは口をへの字に曲げ、納得がいかないような泣きそうな顔をしていた。

「きょ、教科書見せて」
 がたぴしとレビアタンは机を動かした。
「まだ来てないのか?」
「うん、明日来るって言ってたよ」
 ふうと溜息をつくと、レビアタンは僕を見つめた。
「この国って禁欲の国?」
 と小声で聞いてきた。
「おどろくなよ、中学生の性行為は条例で禁止されてるんだ」
「ふええええっ!?」
 やかましいっ!
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by sakananovel | 2007-12-01 01:58 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【9】 アミダブツ

 夜、である。
 僕はベットの中である。
 今日一日とてつもないことが津波のように押し寄せてきたので、なかなか寝付けない。
 さっきまで靖子の部屋からピコピコと大戦略のBGMが微かに流れていたのだが、それももう消えた。
 どこか遠くの方で、トロットロ、トロットロと電車が走る音が聞こえる。
 僕がベットで横になってるのに、あの電車は横浜を超え、小田原を超え、大阪に向かって走っていくのだな。
 なんとなく不思議な感じ。
 開けた窓から、風が入ってきて心地良い。
 蚊取り線香の匂いが、もうすぐ夏なんだと、季節の移り変わりを僕に知らせてくれる。
 体が重くなるような感じがして、僕は眠りについた。

 ……。
 あたりは真っ白な世界だった。
 ドーム状の洞窟? 天井は見えないぐらい高い。
 声を出してみる。
 わんわんわんと反響する。
 うわ、とてもうるさい。
 気がつくと、なんだかとても大きい存在が、僕の横にいて、見下ろしていた。
『吉田文平よ』
 深い響く声は、わんわんと反響していた。
 うわ、阿弥陀様だ。と僕は即座に理解し、床に正座して、頭を下げた。
『直答をさしゆるす。面をあげよ』
「ははっ!」
 頭を上げると、阿弥陀様が立って、僕を見下ろしていた。
 ものすごく大きい、神々しい。
 辺りにはお香の香りとお花の匂いがただよい、乳白色の霧がふわふわと舞っていた。
 微かに笛の音、鐘の音、琴の音のような物。僅かな音が絡み合って音楽を作り上げていた。
『人間の世界は、須弥山をかこむ三千大世界の小さな一つである』
 あ、あれ? 神様が天界、人界、魔界を作ったんじゃないの?
『誰が作ったのでもない、それは自然になされ、調和している』
 あ、考え読まれてる。
『我は汝、汝は我でもあるから、なんの不思議も無い』
「そ、そうですか、深いですね」
『吉田文平には、まだ少し難しいかもしれぬな』
 阿弥陀様はやわらかくお笑いになられた。
『人間界の行く手に暗雲が立ちこめている、もうすぐ大嵐が来るであろう』
「あの、天使と悪魔ですか?」
『かの者たちの光臨も、また兆し』
 あいつらが大嵐じゃないのか?
『大乱による次元の崩壊を食い止めるため、我は吉田文平に力を授けよう』
「力、ですかっ!」
『さよう、人が仏になる過程の途上で身につける六つの力がある。それを特別に吉田文平にさずけよう』
「六つの力!」
『六つと言っても、この時代になると、五つの力の効力はない』
 な、なんか損した気分だな。
『神足通や天眼通などは、人の科学で置き換えられている。遠くに行きたいなら飛行場で切符を買うがよい。遠くを見たいなら望遠鏡やネットカメラを使うが良い』
「はあ、そうですか」
 いや、透視能力とかは、無料で使い放題だから良いのではないかなあ。
 阿弥陀様は、ふわりやさしくお笑いになられた。
『仏になる時に付録で付く能力なれば、元よりさほど大した能力ではない。だが、一つ、漏尽通(ろじんつう)だけは今でも効果が減ることなく、科学でも置き換えが出来ない能力である』
 阿弥陀様が大きな手を僕にかざした。
 手の平から、青く光る凡字のような物が回転しながら僕の方へ下りてきた。
 僕は両手でそれを受け止めた。
 すごい、青い、綺麗な、光だった。
 光の粉が僕の手の平からあふれて辺りに飛び散った。
「これはどういう能力なのですか?」
『煩悩の汚れが無くなった事を確認する能力である』
「……はい?」
『どう使うかは、おのずと解ろう。では私は西方浄土へ戻るとしよう』
「ははぁっ!!」
 僕は床に土下座をした。
 なんだか解らないけど、ありがたくて凄い物を貰った気がした。
 これで、レビアタンとガルガリンに勝てる気が、どんどんしてきた。
『勝てはせぬ』
 阿弥陀様が雲に乗って遠ざかりながら、笑いをふくんだお声で言った。
 辺りが光に包まれた。
 真っ白で眩しい光。
 ああ、なんだか、凄く眩しい。
 あみださま~~。

 小鳥の声がしていた。
 初夏の朝日がカーテンの隙間から、僕の顔の左側に当たって、ちょっと熱い。
 手を見た。
 特に何もない。
 夢だったのか。

 なんだか、すごい神々しいが、馬鹿っぽい夢だった。
 昨日、天使と悪魔が大暴れしたから、あんな夢を見たのかもしれないな。

 僕は着替えをして、階段を降りた。
 台所では、お母さんと靖子が忙しそうに立ち働いていた。
「あ、お兄ちゃん、卵とソーセージは幾つ?」
「卵を一つ、ソーセージ二本」
「わかりました、フライパンに卵を一つ、ソーセージを二つスタックします」
「許可する」
 オーブントースターがチンと言ったので、中できつね色になったパンを出した。
 お父さんの前の皿の上にパンを置くと、新聞の影からお父さんが「ありがとう」と言った。
「文ちゃん、パンを入れてね」
「わかった」
 ビニール袋の中からパンを二枚出して、オーブントースターに入れた。
 お母さんはガスコンロの下のオーブンから、焼けたパンを四枚出してきた。
「靖ちゃん、文ちゃん先にたべなさい」
「はーい」
「わかった」
 きつね色に焼けたパンにバターを塗って、もそもそと食べていると、卵焼きとソーセージが出来て、お母さんが僕の前に運んでくれた。
 トースト、目玉焼き、ソーセージ、ポタージュスープ、昨日の残りのサラダ、が、吉田家の今日の朝食であった。
 ポタージュはお母さんの手作りで、こくがあって美味しい。
「ごちそうさま」
 僕は立ち上がり、二階に行って鞄を取って来た。
 もう、良い時間だな。
「文ちゃん、あまり悪魔ちゃんと仲良くしないのよ」
「大丈夫、天使とも仲良くしないから」
「気をつけてね」
「心配しすぎ」
 行ってきます、と言って、僕は家を出た。
 今日は快晴で気分のいい朝だ。

 右翼さんのお屋敷近くに来ると、黒い高級車が門を出てくるのが見えた。
 僕はさっと物陰に隠れた。
 しめしめ、レビアタンは車で通学か、朝っぱらからまとわりつかれると敵わないからなあ。
 車が行ってしまったのを確認して、僕は歩き出した。
 あー、一人っていいなあ。ガルガリンも先に行ってないかなあ。

 教会の近くまで来ると、門の前でガルガリンがきょろきょろしながら待ち構えて居るのが見えた。
 道を変えよう。
 ちょっと大回りになるが、裏門から入る道ならば、教会の前を通り過ぎなくてすむ。
 僕が振り返ると、ダダダと足音がした。
 うわ、馬鹿天使に見つかった。
 と、思った瞬間、肩に衝撃が走った。
「よしだーーっ!!」
 ガルガリンが飛び蹴りを僕に食らわせていた。
「貴様っ!! 中学二年生のお小遣いは一ヶ月五千円なんだぞっ!! シスターになんて事を勧めるんだお前はっ!!」
 涙目になったガルガリンが、路上にひっくり返った僕に馬乗りになってぽかぽか叩いていた。
「こんなはした金で、中学生は毎月どうやって生活してるんだっ!」
「日本の中学生のお小遣いはそんな物だ、僕は四千円だ」
「あんまりだ、クレジットカードも取り上げられたんだぞ」
 どうやら、ガルガリンは、シスターにお金を中学生らしく制限されたようだ。
「現世の汚泥の中でのたうち回るのも厭わないのではないのか」
「汚れるのは良いけど、貧乏はいやだ、これでは一日160円しか使えないじゃないか」
「僕の上から下りろ、浪費天使め」
 ガルガリンはふくれっ面をして僕の上から下りた。
「こんな貧相な財政では、飲みにもいけないよっ!」
「日本では未成年者の飲酒は法律で禁じられている」

「あれぇぇ……?」
 ガルガリンが僕の方をじっと見ていた。
「なんだよ」
 目を見開いて、僕を注視している。
 なんだなんだ?
「……な、なんで、よしだは一晩で神格があがってるんだ?」
 ガルガリンが引きつりながら言った。
「神格ってなに?」
「神様の番付みたいなもの。レビアタンを十としたら、ボクは七、昨日のよしだは一」
「レビアタンの方がお前より上?」
「あったりまえだよ、ボクは上位の下だけど、レビィは上から七位以内だもん」
「あの女は、そんなに偉い悪魔だったのか」
 ぜんぜんそうは見えない。
「まあ、悪魔の階級だから、天使の上位下と同格とボクは思ってるけど、内包する魔力はやっぱりレビィの方が大きいね」
「そうなのか」
「でさ、今日のよしだは神格が、三ぐらいに上がってる。どうしたの?」
 ……。
 あみださま?
 なんか、不思議な力?
 僕はじっと手を見つめたのであった。
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by sakananovel | 2007-11-29 22:29 | 天使と悪魔の円舞