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天使と悪魔の円舞【9】 アミダブツ

 夜、である。
 僕はベットの中である。
 今日一日とてつもないことが津波のように押し寄せてきたので、なかなか寝付けない。
 さっきまで靖子の部屋からピコピコと大戦略のBGMが微かに流れていたのだが、それももう消えた。
 どこか遠くの方で、トロットロ、トロットロと電車が走る音が聞こえる。
 僕がベットで横になってるのに、あの電車は横浜を超え、小田原を超え、大阪に向かって走っていくのだな。
 なんとなく不思議な感じ。
 開けた窓から、風が入ってきて心地良い。
 蚊取り線香の匂いが、もうすぐ夏なんだと、季節の移り変わりを僕に知らせてくれる。
 体が重くなるような感じがして、僕は眠りについた。

 ……。
 あたりは真っ白な世界だった。
 ドーム状の洞窟? 天井は見えないぐらい高い。
 声を出してみる。
 わんわんわんと反響する。
 うわ、とてもうるさい。
 気がつくと、なんだかとても大きい存在が、僕の横にいて、見下ろしていた。
『吉田文平よ』
 深い響く声は、わんわんと反響していた。
 うわ、阿弥陀様だ。と僕は即座に理解し、床に正座して、頭を下げた。
『直答をさしゆるす。面をあげよ』
「ははっ!」
 頭を上げると、阿弥陀様が立って、僕を見下ろしていた。
 ものすごく大きい、神々しい。
 辺りにはお香の香りとお花の匂いがただよい、乳白色の霧がふわふわと舞っていた。
 微かに笛の音、鐘の音、琴の音のような物。僅かな音が絡み合って音楽を作り上げていた。
『人間の世界は、須弥山をかこむ三千大世界の小さな一つである』
 あ、あれ? 神様が天界、人界、魔界を作ったんじゃないの?
『誰が作ったのでもない、それは自然になされ、調和している』
 あ、考え読まれてる。
『我は汝、汝は我でもあるから、なんの不思議も無い』
「そ、そうですか、深いですね」
『吉田文平には、まだ少し難しいかもしれぬな』
 阿弥陀様はやわらかくお笑いになられた。
『人間界の行く手に暗雲が立ちこめている、もうすぐ大嵐が来るであろう』
「あの、天使と悪魔ですか?」
『かの者たちの光臨も、また兆し』
 あいつらが大嵐じゃないのか?
『大乱による次元の崩壊を食い止めるため、我は吉田文平に力を授けよう』
「力、ですかっ!」
『さよう、人が仏になる過程の途上で身につける六つの力がある。それを特別に吉田文平にさずけよう』
「六つの力!」
『六つと言っても、この時代になると、五つの力の効力はない』
 な、なんか損した気分だな。
『神足通や天眼通などは、人の科学で置き換えられている。遠くに行きたいなら飛行場で切符を買うがよい。遠くを見たいなら望遠鏡やネットカメラを使うが良い』
「はあ、そうですか」
 いや、透視能力とかは、無料で使い放題だから良いのではないかなあ。
 阿弥陀様は、ふわりやさしくお笑いになられた。
『仏になる時に付録で付く能力なれば、元よりさほど大した能力ではない。だが、一つ、漏尽通(ろじんつう)だけは今でも効果が減ることなく、科学でも置き換えが出来ない能力である』
 阿弥陀様が大きな手を僕にかざした。
 手の平から、青く光る凡字のような物が回転しながら僕の方へ下りてきた。
 僕は両手でそれを受け止めた。
 すごい、青い、綺麗な、光だった。
 光の粉が僕の手の平からあふれて辺りに飛び散った。
「これはどういう能力なのですか?」
『煩悩の汚れが無くなった事を確認する能力である』
「……はい?」
『どう使うかは、おのずと解ろう。では私は西方浄土へ戻るとしよう』
「ははぁっ!!」
 僕は床に土下座をした。
 なんだか解らないけど、ありがたくて凄い物を貰った気がした。
 これで、レビアタンとガルガリンに勝てる気が、どんどんしてきた。
『勝てはせぬ』
 阿弥陀様が雲に乗って遠ざかりながら、笑いをふくんだお声で言った。
 辺りが光に包まれた。
 真っ白で眩しい光。
 ああ、なんだか、凄く眩しい。
 あみださま~~。

 小鳥の声がしていた。
 初夏の朝日がカーテンの隙間から、僕の顔の左側に当たって、ちょっと熱い。
 手を見た。
 特に何もない。
 夢だったのか。

 なんだか、すごい神々しいが、馬鹿っぽい夢だった。
 昨日、天使と悪魔が大暴れしたから、あんな夢を見たのかもしれないな。

 僕は着替えをして、階段を降りた。
 台所では、お母さんと靖子が忙しそうに立ち働いていた。
「あ、お兄ちゃん、卵とソーセージは幾つ?」
「卵を一つ、ソーセージ二本」
「わかりました、フライパンに卵を一つ、ソーセージを二つスタックします」
「許可する」
 オーブントースターがチンと言ったので、中できつね色になったパンを出した。
 お父さんの前の皿の上にパンを置くと、新聞の影からお父さんが「ありがとう」と言った。
「文ちゃん、パンを入れてね」
「わかった」
 ビニール袋の中からパンを二枚出して、オーブントースターに入れた。
 お母さんはガスコンロの下のオーブンから、焼けたパンを四枚出してきた。
「靖ちゃん、文ちゃん先にたべなさい」
「はーい」
「わかった」
 きつね色に焼けたパンにバターを塗って、もそもそと食べていると、卵焼きとソーセージが出来て、お母さんが僕の前に運んでくれた。
 トースト、目玉焼き、ソーセージ、ポタージュスープ、昨日の残りのサラダ、が、吉田家の今日の朝食であった。
 ポタージュはお母さんの手作りで、こくがあって美味しい。
「ごちそうさま」
 僕は立ち上がり、二階に行って鞄を取って来た。
 もう、良い時間だな。
「文ちゃん、あまり悪魔ちゃんと仲良くしないのよ」
「大丈夫、天使とも仲良くしないから」
「気をつけてね」
「心配しすぎ」
 行ってきます、と言って、僕は家を出た。
 今日は快晴で気分のいい朝だ。

 右翼さんのお屋敷近くに来ると、黒い高級車が門を出てくるのが見えた。
 僕はさっと物陰に隠れた。
 しめしめ、レビアタンは車で通学か、朝っぱらからまとわりつかれると敵わないからなあ。
 車が行ってしまったのを確認して、僕は歩き出した。
 あー、一人っていいなあ。ガルガリンも先に行ってないかなあ。

 教会の近くまで来ると、門の前でガルガリンがきょろきょろしながら待ち構えて居るのが見えた。
 道を変えよう。
 ちょっと大回りになるが、裏門から入る道ならば、教会の前を通り過ぎなくてすむ。
 僕が振り返ると、ダダダと足音がした。
 うわ、馬鹿天使に見つかった。
 と、思った瞬間、肩に衝撃が走った。
「よしだーーっ!!」
 ガルガリンが飛び蹴りを僕に食らわせていた。
「貴様っ!! 中学二年生のお小遣いは一ヶ月五千円なんだぞっ!! シスターになんて事を勧めるんだお前はっ!!」
 涙目になったガルガリンが、路上にひっくり返った僕に馬乗りになってぽかぽか叩いていた。
「こんなはした金で、中学生は毎月どうやって生活してるんだっ!」
「日本の中学生のお小遣いはそんな物だ、僕は四千円だ」
「あんまりだ、クレジットカードも取り上げられたんだぞ」
 どうやら、ガルガリンは、シスターにお金を中学生らしく制限されたようだ。
「現世の汚泥の中でのたうち回るのも厭わないのではないのか」
「汚れるのは良いけど、貧乏はいやだ、これでは一日160円しか使えないじゃないか」
「僕の上から下りろ、浪費天使め」
 ガルガリンはふくれっ面をして僕の上から下りた。
「こんな貧相な財政では、飲みにもいけないよっ!」
「日本では未成年者の飲酒は法律で禁じられている」

「あれぇぇ……?」
 ガルガリンが僕の方をじっと見ていた。
「なんだよ」
 目を見開いて、僕を注視している。
 なんだなんだ?
「……な、なんで、よしだは一晩で神格があがってるんだ?」
 ガルガリンが引きつりながら言った。
「神格ってなに?」
「神様の番付みたいなもの。レビアタンを十としたら、ボクは七、昨日のよしだは一」
「レビアタンの方がお前より上?」
「あったりまえだよ、ボクは上位の下だけど、レビィは上から七位以内だもん」
「あの女は、そんなに偉い悪魔だったのか」
 ぜんぜんそうは見えない。
「まあ、悪魔の階級だから、天使の上位下と同格とボクは思ってるけど、内包する魔力はやっぱりレビィの方が大きいね」
「そうなのか」
「でさ、今日のよしだは神格が、三ぐらいに上がってる。どうしたの?」
 ……。
 あみださま?
 なんか、不思議な力?
 僕はじっと手を見つめたのであった。
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by sakananovel | 2007-11-29 22:29 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【8】 月夜

 天使と悪魔に挟まれて、初夏の夜の道を歩く。
 柔らかい感じの夜の匂いがする。
「私、夜の匂いすきなんだ~」
 レビアタンが小さな体を反らせて、すうはあと夜の大気をすいこんではきだしていた。
「そうなのですか」
「しかし、中学生は夜遊びしちゃだめなの? いったい日本の中学生の男女はどうやって仲良くなるんだ?」
「学校とかで」
「ねえねえ、吉田くん、土曜日の放課後、どこか遊びにつれていって~~」
「おことわりだ」
「日曜日にボクとデートしないか? サッカーとか見に行こうよ」
「やなこった」
 なんだか、僕の誕生史上、最強のモテモテ状態なのだが、結局の話、こいつらはクラスを自分の支配下に置きたいだけなので、油断は大禁物である。
「もー、吉田くん、堅物だよ」
「よしだはもっと、女の子に対して心を開くべきだ」
「ほっといてくれ」
 油断は禁物だが、可愛い女の子の形をした存在二つに挟まれて歩くのは、そう悪い気分ではなかった。
 気をぬくと、なんか、にやけてしまいそうなので、僕は無表情を装って、歩く。
「吉田くんて、どんな女の子が好きなの」
「うん、ボクも聞きたいよ」
「そうだなあ……」
 実を言えば、レビアタンが、ど真ん中ストライクだったりする。
 女の子っぽくて、ほっとけなくて、好みではある。
 で、ガルガリンみたいなタイプが嫌いかというと、そうではなくて、大好物である。
 明るくて率直で、気軽に話ができそうだし、一緒にいると楽しそうだ。
 だが、そんなことを正直に言うわけにはいくまい。
「僕の好きなのは、背が高くて、髪が長くて、町中でコスプレをして、パラソルを振り回し、ぼそぼそとぶっきらぼうにしゃべるお姉さんだ」
「なんだそれはっ。そんな女は、あり得ないよっ!!」
「いたとしても、それは凄く変な人だよう~~。そんなの駄目ー」
 おやおや、天使と悪魔に大不評ですよ、魔女さん。
 ちらっと振り返ると、真っ黒なバンが遠くに停まってるのが見えた。
「吉田くんは、趣味がすごく変だよ~」
「もっと、金髪が好きだとか、元気でかわいいのが好みとかじゃないと、駄目だよっ!」
「ほっといていただきたい」
 右翼さんのお屋敷についた。
 レビアタンが門に近づくと、いかつい背広のおじさんがにこやかに門を開けた。
「じゃあ、おやすみー、また明日ねー」
「ああ、お休み」
「また明日なっ」
 ガルガリンがぶんぶんと手を振った。

 教会に向けて、ガルガリンと歩く。
 夜の街に、わんわんと犬の声が響く。
 ふと、気がつくと、ガルガリンが僕の手をとり、体をすりよせてきた。
「な、なにをする!」
「えへへ、誘惑~。あんまりやらないから照れくさい」
 頬を赤く染めて、恥ずかしそうに、はにかむガルガリンの顔が凄く可愛くて。
 おもわず、僕は奴の額にチョップを入れた。
「いたっ! 天使を叩くやつがあるかっ! 神を恐れぬ不心得者めっ!」
「おまえこそ、天使らしく無いことはやめれっ」
「レビアタンは誘惑にかけては凄腕だから、こちらも手段を選んでいられないんだよ」
「戒律を破ると天国に入れないぞ」
「馬鹿め、私は天界から来たんだ、普通に帰省すれば天国行きだよ」
 そりゃまあ、そうだが。
「妙な事をすると、堕天使になって魔界行きじゃないのか?」
「え? ああ、そう思われているのか。あー、まあ、別に、そうでもない」
 ? なんか歯切れの悪い答えだな。
「き、企業秘密だ、気にするなよ」
 天界は企業じゃないだろう。

 教会が見えてきた。
 夜に見ると、十字架をライトアップして、白くて綺麗な建物だなあ。
 教会の門で、シスターが立っていた。
「ただいまー!」
 といって、ガルガリンがシスターに駆け寄り抱きついた。
「まあまあ、早かったのですね」
「こいつは、クラスメートのよしだ」
「ガルガリン様がいつもお世話になっています」
 シスターは上品そうで、いい人っぽかった。
「いえいえ」
「さあ、お部屋にまいりましょう、ガルガリン様」
「うんっ!」
「あのー、シスターさま」
「はい?」
「これ、に対しては、普通の女子中学生として扱った方が良いと思うのですが」
 これと言って僕はガルガの頭をはたいた。
 シスターは目を丸くしていた。
「な、なんでだよう」
「おまえは、人間統治の研究の為に中学校へ編入したんだろ」
「そ、そうだよ、神の栄光をこの地にくまなく与えるため、座天使ガルガリンは浜崎第四中学校に編入したんだよ」
「じゃあ、天使様としてではなくて、女子中学生として扱って貰った方が、この土地の子供の気持ちがわかると思うぞ」
 ガルガリンはぶるぶる震えていた。
 怒ってるのかと思ったが、感動しているようだ。
「よしだは凄いな、天使にむかってよくそこまで理不尽な要求ができるものだ、さすがは異教徒だ。不愉快を通り越して、なんだか愚鈍の極みの聖人を見た時のように、ボクは感動した」
 それは誉めてるのか貶してるのかどっちだ。
「たしかに、左様ではありますが、ガルガリン様はそれでよろしいのですか?」
「かまわないよ、シスター。ボクは現世の汚泥のなかでうごめきまわろう。ボクの鈍色の羽が汚れ、天輪がくすもうとも恐れはしないよ、それが神の栄光をこの世界に伝えるためなのだから」
「まあ、なんとご立派なご覚悟でしょう」
 シスターはハンカチをだして、目尻を押さえた。
「ボクをシスターの娘として、女子中学生としてあつかって下さい」
 ひしと、シスターとガルガリンは抱き合った。
 あれだな、天使は劇的な状況を作りすぎだと思うな。
「それでは、おやすみなさい」
 僕はシスターとガルガリンに手を振った。
「おやすみ、よしだ、また明日ね」
「おやすみなさい、よしださん」
 シスターがふんわりと頭をさげていた。
 よーし、これでガルガリンの夜間外出を止めたぞ。
 僕は月にむかってガッツポーズを取った。

 意気揚々と夜の道を歩いていると、黒いバンが僕を追い越して止まり、ドアをあけた。
 チャイナドレスの魔女さんが居て、こちらを見ていた。
「乗っていくか、少年?」
「はい」
 バンの助手席に乗せて貰った。
 大きなバンなので、前の席に三人座れるようだ。
「君の理想の女性が私だとは思わなかったぞ」
「あれは嘘です」
「なんだ、乗せるのではなかった」
 バンの中で小さく笑い声が響いた。
 運転手さんは黒服の人。
 後ろでメイドさんとハンサムなお兄さんが、電子機器をいじっていた。
「レビアタン、就眠しました」
「ガルガリン、寝室にはいります」
 沢山のディスプレイに色々な場所の映像が映っていた。
 うわ、プライバシーとか無いんだな。
 黒いバンは闇を切り裂いて走って行く。
「どうして魔女なんですか、悪魔側のシンパなんですか?」
「ふむ、良い質問だ、結論を言うと人類側だ」
 魔女さんは、中国剣を抱えて前を向いていた。
「でも魔女って」
「ふふ、あの魔女ではないのだ」
「では、どの魔女なんですか?」
「私は昔、フェアリーガルドから来た魔法少女だったのだ」
「はあ?」
 また、凄い設定を出してきたな、この人。
 大昔やっていたアニメのプリティ魔法少女、ニャンキーミミだな。
 再放送で見たことがある。
「ウルメポッポと名付けた自転車にのり、ステッキを振りかざし、私は町中を愛と幸せと夢で一杯にあふれさせ大活躍をしたのだ」
「はあ、あのお供のフレッキー君は?」
 フレッキー君とは、ニャンキーミミのお供の長ほそいイタチだ。
「老衰で死んだ」
「ご、ご愁傷様です」
 夢も希望もないな。
「時の流れは残酷だ、私は気がついたら魔法少女と名乗れない歳になっていた」
「いつごろまで、魔法少女だったのですか?」
「高校三年までだ。大学にはいったらさすがに困った。魔法少女とは名乗れぬ、だが、魔法女ではなにやらサイコさんみたいではないか」
「それで、魔女なんですか」
「そう、悪魔と契約を結んだ魔女ではないのだ、愛と幸せと夢を運ぶ魔法少女のなれのはての魔女なのだ」
「そうっすか」
 この人は力強く法螺話するなよなあ。
「で、どうしてチャイナ服ですか?」
「私の魔法は、色々な大人になって問題を解決する物だった。歳をとったのでな、姿は変わらないが服装が替わる、今は中国拳法の達人という職業だ」
 なにゆえ、このお姉さんは馬鹿な事を真面目な顔をしてぼそぼそと言うのであろうか。

 バンが吉田家の前に止まった。
「私が魔法少女あがりの魔女というのは絶対の秘密だ、誰にも言ってはいけないぞ」
「いや、誰にも言えませんですよ」
 馬鹿すぎて。
「うむ、ではサラバだ、吉田少年」
 政府関係者でも、魔女さんの下の人は色々と激務なんだろうなあ。
 僕は同情しながら家に入った。
 そして、小一時間、お母さんとお父さんに説教されたのであった。
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by sakananovel | 2007-11-28 23:43 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【7】 吉田家

「ただいまー」
「あら、おかえり」
 お母さんが台所から顔をだして言った。
 家の中にカレーの匂いが充満していた。
「今日、文ちゃんのクラスに、天使さんと悪魔さんが来たんでしょ。どうだったの?」
「ん、まーまー」
「もー、文ちゃんたら、返事になってないわよ」
 まーまーとしか言えない。
 今日起こった事を、詳しくお母さんに説明すると卒倒するかもしれない。
 そのまま僕は二階にあがり、自分の部屋に入った。

 僕の部屋には靖子が居て、ちんまり正座して、Hな漫画を真剣に読んでいた。
「な、なにをしてるんだ?」
 びょんと靖子は宙に跳びあがり、あわあわと僕のHな漫画を机の下に投げこんだ。
「お、お兄ちゃん、おかえり」
 真っ赤になって靖子は、ずれたメガネを直し、正座して指を付き頭を下げた。
「えー、あー」
 Hな漫画を読んでいたろうと、指摘し糾弾するのが、なんか凄く照れくさい。
「そのー、おおお、お兄ちゃんの洗濯物を持って行けと母親に命令を受け、畳んでタンスに収納いたしました」
「あ、ありがとう」
「で、では、私は撤退いたします」
「う、うむ、許可する……」
 靖子は赤い顔で僕の横を通り過ぎ、部屋から撤退して行った。
 机の下を見ると、斎藤から借りたH漫画が広がって落ちていた。
 うわ、体裁悪いなあ……。
 とりあえず、本棚の後ろの秘密スペースへと、H漫画を輸送、秘匿した。
 小学五年生がこういう漫画を読むのはいかん! と猛然と思ったのだが、まあ、うー、しかたないので放っておくしかないなあ。
 靖子は女の子にしては珍しく、お人形よりも戦車とか戦闘機とかが好きな子で、最近はシミュレーションゲームにはまっているようだ。H漫画とかにもはまったら、その先は腐女子とか言われるコース一直線な気がするなあ。
 やばいやばい。

 夕食のカレーを食べながらも、吉田兄妹は目をあわさず、ぎこちない雰囲気だった。
 吉田兄である僕も、吉田妹である靖子も、もくもくとカレーを食べる。
 吉田母が「どうしたの?」とか行ってくるが、吉田兄として、僕は「うんまあ」とか言ってごまかす。
 吉田父は新聞を見ながら、今日の事を僕から聞きだそうとしていたが、僕は適当に、いい加減な事をしゃべった。
 まあ、普通の一家団欒であった。

 夕食後、自分の部屋に戻り、パソコンのモニターでニュースを見た。
 お父さんのお下がりで、テレビも見れるパソコンモニターなのだ。本体は結構型落ちだけどね。
 良いノートパソコンも下がって来たのだけど、僕はあまりパソコンをしないから、良いのは靖子の部屋にある。
 ニュースで自分の学校の映像を見るのはへんな感じだった。
 斎藤がインタビューをうけていた。
 なんか上がってへどもどしていた。
 レビアタンとガルガリンの映像はプライバシー保護の関係か、一切写っていなかった。
 それで、雅谷マサオは、僕がレビアタンと別れてから出て来たのか。

「文ちゃん電話よ~」
 お母さんが下から大声を出した。
 だれだろう、斎藤かな?
 階段を降りて、お母さんから受話器を受けとった。
「はい、吉田です」
『あ、吉田くん? レビアタンです。こんばんわ~~』
 女の子からの電話なので、お母さんがにまにましながら、近くで新聞を片付けていた。
「な、何用?」
『用はないの~~。なんか、吉田君の声が急に聞きたくなって~~』
「用がないなら切るよ」
『うわあ、まってよう、吉田君ひどいよう、普通は、「そうなんだ、僕もレビィの声を聞きたいと思っていたんだよ」って、言わないかなあ~』
「絶対にそんな事を言わない。たぶん死ぬまで言わない」
『吉田くんてぶっきらぼうさんなのね~~。ツンデレって言うやつかな?』
「デレは無し」
『無いのぉ。つまんないなあ~~』
 うるせえので、頭の悪いレビィちゃん電話をたたっきろうとしたときであった。
 チャイムが、ピンポーンポピンポーンと節をつけて鳴らされた。
「はいー」
 とお母さんが、引き戸を開けるとガルガリンが立っていた。
「こんばんわー、よしだ、遊びにいこうよ」
「おまえっ! 今何時だと思ってるんだ」
『わあ、ガルガちゃんずるいよう、私もいくよう』
「あ、あの、どちらさま?」
「あ、こんばんわ、お母さん、座天使ガルガリンといいます」
 ぺこりんとガルガリンが頭を下げた。
「んん、まーっ!」
 驚きと喜びがこもった吉田母の嬌声が玄関に響いた。
 お母さんは可愛くて綺麗な物に目がないのだ。
『わたしも、吉田君のお母様に挨拶にいくーっ!』
「くるなっ!」
『いくったらいくもん、おじいさま~~~』
 わ、電話放り投げてどっかに行ったらしい。
「レビィが来る前に行こうぜ、よしだ」
 いたずらっぽく笑って、ガルガが僕の手を引っぱった。
 僕はガルガの額にチョップを入れた。
「いたっ」
「中学生は夜に遊びにいってはならないのだ」
「え、そうなの?」
 ガルガが僕をみて目をぱちくりさせた。
「まだ宵の口なのに。バーとか行ってお酒をのんで、そのあと、まあその……」
 僕は、ガルガのほんのり赤くなった頬をひねった。
「いひゃい、いひゃい」
「そんなアダルトな夜遊びをする中学生がどこにいるかっ!」
「そういうのは大学生になってからねえ」
 お母さんが笑った。
『もしもし、この電話は切ってもよろしゅうござますか?』
「あ、ええ、はい、レビィはどうしましたか」
『お車でもう、お出になりましたよ。それでは』
 電話は切れた。優しい女の人の声はメイドさんかな。
 僕は受話器を下ろした。
「中学生は夜遊びに行ってはいけないの?」
「あたりまえだ、校則にも書いてある! シスターさんは止めなかったのか?」
「? シスターは神の下僕だよ。なんで上級の天使のやることに口をだせるわけ?」
「お前はホームステイ先を間違ってるぞっ!!」
「まあまあ、文ちゃん、そう怒らないで、なれない外国暮らしで、ガルガちゃんも解らないのよ」
 外国じゃなくて、別次元だ。
「こんばんわ~~!! レビィも遊びにいくっ!!」
 レビアタンも来やがった。
 ふと見まわすと、吉田父がキッチン方向から顔を出し、階段の上から靖子も顔を出していた。
「まあまあ、かわいらしい、あなたがレビアタンちゃん?」
「はいー、おかあさま初めましてー、悪魔のレビアタンです~~」
「帰れ、おまえらっ!」
「まあ、なんてことでしょう、可愛い天使さんと悪魔さんが、吉田家にきてくれるなんてー」
 お母さん、あなたは昨日、絶対に天使と悪魔に関わらない事ときつく僕に念を押していたような記憶があるのですが。
「遊びに行くのは駄目だけど、ちょっと上がってお茶でもいかが?」
「はい、ありがとうございます」
「わあい、うれしいです。あ、おじいちゃんたちは帰っていいよ~~。吉田くんに送ってもらうから」
「うむ、そうか、吉田さん、よろしくおねがいいたします」
 右翼の大物のお爺さんが頭をさげたので、お父さんが出てきて、これはこれはと言いながら、はいつくばるように頭を下げていた。

 お母さんが馬鹿二人をリビングに通し、靖子を呼んだ。靖子は照れくさそうにやって来た。
 なんだかなあ。
「おー、これが日本の庶民の家」
「わあ、狭いねえ」
 だまれ、失礼な悪魔め、ローンがもの凄く残ってるんだぞ。
 お母さんがミルクティーを出してくれた。
 お父さんが畳にあぐらをかいたので、ソファーの席を変わろうと立ち上がったら、お母さんにベルトを引っぱられた。
 靖子も床に女の子座りをしていた。
「うわ、可愛い、よしだの妹?」
「や、靖子です」
「うわー、かわいいなあ、靖子ちゃんよろしくねえ~~」
 なんという傍若無人な天使と悪魔なのだ。
「学校はどうでしたか?」
「楽しかったです、みんなと早くお友達になって、神の栄光をお分けしたいと思っています」
「レビィも楽しかったですよ~、早く仲良くなって、クラスのみんなを堕落させたいです」
 しんと、空気が凍った。
 お父さんが苦笑いをした。
「どうして、文ちゃんと仲良くなったの?」
 僕は天井を見上げて、紅茶をすすった。
「私と、レビィのどちらがクラスを掌握するかという事になりまして」
「まっぷたつに別れちゃったの、それでね、吉田君だけ棄権しちゃったので~~」
「よしだが好きと言った方の勝ちという事になったんです」
 吉田父母の表情が硬い。靖子も引きつり笑いをしている。
 なんだかなあ。
「そ、そろそろ帰れ、お前ら」
「うん、お茶ごちそうさまでした」
「おいしかったです~~」
 ガルガリンとレビアタンが立ち上がった。
 僕も仕方なしに立ち上がった。
 こんなやつら送って行かなくてもよさそうな物だが、夜だしね。
「また、遊びにきてくださいね」
「はい、またきます」
「また、遊びにきますよ~~」
 僕は、天使と悪魔を追い立てて、家の外に出た。
 もう、このまま闇の街に駆け出して、吉田家に帰りたくない。
 と、お月様を見上げて、そう思った。
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by sakananovel | 2007-11-27 18:47 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【6】 レースクイーンが出た。

 レビアタンと別れて僕は家路についた。
 右翼かあ。悪魔を泊めようという人はなかなかいないのだろうなあ。
 それを考えると、天使であるガルガリンの方が恵まれている感じだな、シスターさんは優しそうだ。
 などと考えながら歩いていると、マイクを持った雅谷マサオが僕の前に立ちふさがった。
「やあ、君は浜崎第四中学校生徒だよね、今日は天使と悪魔が転入した初日だったけど、どうだった?」
 ワイドショーレポーターの雅谷マサオは、テレビで見るよりもほっそりしていた。彼の後ろにカメラマンが居て、僕にレンズを向けていた。
「いや、あのその……」
「お茶の間の皆さんは、レビアタンちゃんとガルガリンちゃんが、どんなふうに学校で過ごしているか、すごく興味があるんだ。どうだったの? 学校で騒ぎになった?」
「い、いえ別に」
「さっきまでレビアタンちゃんと一緒だったよね、仲良くなったの? どうなの君?」
「い、いそいでますので」
「まってまって、お礼はするからさ、ちょっとだけ、インタビューさせてよ」
 無視していこうとする僕の肩をぐいっと掴んで、雅谷マサオはカメラの前に引き寄せた。
「行くことないじゃんかよ、坊や、国民のみんなの関心なんだぜ。君には話す義務がある」
 マイクを外し、小声で脅すように雅谷マサオは言った。
「そんなのありません」
「大人なめんなよ、ガキッ……」
 ぎゅうぎゅうと雅谷マサオは僕の肩を握りしめた。
 すごく痛い。
 バアアンと凄い音がして、雅谷マサオがひっくり返った。カメラマンが唖然とした顔でこちらを見ていた。
 水着? いや、なんかピカピカ光る青いレオタードの女の人が、でかいパラソルで雅谷マサオをどついたのだ。
「なんだっ! 貴様っ!!」
「魔女」
 レースクイーンみたいな格好をした、その綺麗なお姉さんはぼそりと言った。
「ま、魔女?」
「魔女は予言する。今すぐテレビ局に帰らないと、雅谷マサオは後悔する。なぜなら、ここで撮ったビデオはまったく報道に使われず、リポーターの仕事も明日から無くなる、テレビ業界に君の居場所はまったくなくなる」
「貴様っ! せ、政府関係者だなっ!! 横暴だっ!! われわれには報道の自由があるっ!!」
「私は魔女と言ったはずだ。政府関係者がこんな格好で街をうろついている訳があるか」
 レオタードのお姉さんは、バットを振るようにでかいパラソルをブンブン素振りした。
 雅谷マサオはカメラマンを見た。そして歯ぎしりをした。
「どうした、レースクイーンの私ごと撮って、報道したらどうだ? それがまともな報道と見なされると思っているならな」
「き、きたねえぞっ!」
「魔女は汚い手をつかうものだ」
「お、おぼえてろよっ!!」
 雅谷マサオは吐き捨てるように言うと、カメラマンを連れて走って逃げた。
「……あ、ありがとうございます」
「礼にはおよばん、魔女の仕事のうちだ」
「は、はあ、そうですか」
 何だかレースクイーンのような格好をした、綺麗なお姉さんにじっと見つめられるとどぎまぎした。
 お姉さんはパラソルを開いた。
「少し、ヨブに話がある。いいだろうか」
「ヨブって呼ぶのはやめてください」
 魔女のお姉さんはきゅっと笑った。
「わかった、吉田文平君。来たまえ」
 うっかり流したけど、この人は学校であったことを知ってるんだ。と僕は気がついた。
 自称魔女さんに連れて行かれたのは、児童公園だった。
 喫茶店のテラスに置かれているような丸いテーブルが置いてあって、魔女さんはそこにパラソルを差し込んだ。
「座りたまえ、コーヒーで良いな」
「は、はあ……」
 メイドさんがお盆にコーヒーをのせてやって来て、僕たちの前に置いた。
「な、なんでコスプレなんですか」
「魔女だから」
 ぺこりと一礼して、メイドさんは木立の奥に消えた。
 なんだか大きくて黒いバンが、公園の隣の道にのっそりと停まっていた
「どうして、教室であったことを知ってるんですか?」
「魔法で知った。映像が四元、音声が十二元で中継される」
「隠しカメラとマイクですか」
「魔法にしておけば、角がたたなくて良い」
 なんだか、すっとぼけた人だな。
 僕はコーヒーをすすった。地獄のように熱くて苦い。
「魔女は希望する。あのまま二人を引きつけておいてくれ」
「ガルガリンとレビアタンですか?」
「うむ、なるべく長くだ」
「どうして僕がそんなことを」
「あくまで希望だ、嫌ならばしかたがない、他の手段をこころみる」
「嫌ではないですけど……」
「少し教えておく。あの二人は子供ではない」
「そ、それは解ってます」
「君は解っていない」
 魔女さんはレオタードの胸から二枚の写真を出した。
 金髪で映画スターのように格好いい男と、黒髪のすごく綺麗でセクシーな女がそれぞれ写っていた。
「これは、誰で……」
 金髪はガルガリンに似ていた、兄妹だと言っても僕は信じた。
 女の人はレビアタンに似ていた、お姉さんでも不思議ではない。
「この学校に来る前の二人だ、旅行中のな」
「で、でも、ガルガは性別が、レビィは年齢がっ!」
「姿形は擬体なのだと言われている。なんとも魅力的な二人でね、天使についた二人の案内役は敬虔なクリスチャンに回心した。、悪魔についた案内役二人は……。大人っぽく堕落したよ」
 僕の汗がぽたりと、大人レビアタンの写真の上に落ちた。
「あの姿に変じたのは、くじ引きで浜崎第四中学校へ編入が決まってからだ、精神的メンタリティも以前とはずいぶん違う」
「偽物、なんですね」
「さあ、どうだろうか、何が本物で何が偽物なんだい? 巨大な海の怪獣がレビアタンの本当なのか? 主を運ぶ炎熱の車輪の姿がガルガリンの本当なのか? とりあえず、解っているのは、彼女らは我々とは違う存在だという事だけだ」
 手がぶるぶる震えていた。
 可愛い二人の女の子だと思っていた。
 確かに天使と悪魔と言われてるけど、しゃべってみるとちょっと頭が悪いけど、良い子たちにしか思えなかった。
 でも、ぜんぜん違うんだと今、解った。
 昔の写真を見て解った。
 あの姿は、すごい悪意のある嘘。人に警戒されないように、人が油断するように、人に愛させるように作られた「嘘」なんだと、解った。理解した。
 そしてなんだか、すごく切なくて悲しかった。
「時間を稼ぎたい」
「ど、どうして」
「ふふ、知れたことを聞くな、少年。弱点を見つけて、天使も悪魔も人間界から叩き出してやるのだ」
「これまでに何か弱点とかがわかったんですか」
「いや何にも」
「二年間、何やってたんですかっ!」
「彼女たちが本当に天使と悪魔なのかもわからない。聖書の天使と悪魔なのか、中世の悪魔学の天使と悪魔なのかさえもわかっていない」
「ち、ちがうものなんですか? 聖書と中世では」
「まるっきりの別物だ」
「時間を稼げば成算はあるんですか」
 魔女さんはにっこり笑った。
「人は無駄なあがきをするものなんだ」
「何の成算もないんですね」
「人というものは、天使にもなれず、悪魔にもなれない中途半端な道を蛇行しながらうろうろする生き物だ」
 そう言って魔女さんはコーヒーをすすった。
 僕はまた、げんなりした。
「半年後、来年の一月一日に別の次元で、天使と悪魔の大決戦があるそうだ。それまでどちらつかずの態度で時間を稼いで欲しい」
「どうして、僕がそんな」
「きまっているだろう、吉田文平は男だからだ」
 くそ。
 ヨブだからと言われるよりは良いけど、結局僕が大変なのはなにも変わらないじゃないか。
「男の子というものは、時に無意味に頑張るものだ。困った事があったら黒いバンを探せ。この名刺を見せれば大抵の願いは叶うだろう」
 そう言うと、魔女さんは、僕に名刺を渡した。
”魔女株式会社 課長補佐 魔女”
 と可愛い書体で、書かれていた。
「では、さらばだ」
 魔女さんはパラソルを引き抜くと、モデル歩きで去っていった。
 メイドさんがやって来てカップを回収し、黒い背広の人がテーブルと椅子を運んで行った。
 ……政府の人も大変だなあ。
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by sakananovel | 2007-11-26 22:02 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【5】 鋼鉄委員長芳城胡桃

5

 五時間目の授業が終わって、僕の席に来て、きゃいきゃい騒ぐ天使と悪魔の相手をせずに、水を飲みに行った。
 絶対に彼女らと関わり合いになるまいと思っていたのに、どっぷりと関わってしまい、とてつもない敗北感があった。
 水を出してゴクゴク飲んでいたら、芳城胡桃がハンカチで手を拭きながら女子トイレから出てきた。
 胡桃は僕の前で足を止めた。
 水を止め、目を上げると、なんだか、軽蔑したような冷たい視線で、胡桃が僕を見ていた。
「な、なんだよ」
「馬鹿を見てるの」
「馬鹿ってなんだよっ!」
「なんで、あんな異次元生物にかかわっちゃうわけ? あの二人が可愛いから、モテモテで嬉しいの?」
「ち、違うよっ!! そうじゃない、たまたまだよ、成り行きでっ!」
「いっつも文平ってそうだよね、つまんない事で意地はっちゃって」
「天使が番をはるクラスも、悪魔が番をはるクラスも嫌だろっ!! 胡桃だって」
「やっぱり底抜けの馬鹿ね。実権のない番長なんて肩書きに何の意味があるのよ? どっちが番長になったって、『それは、番長の権限にありません』の一言でつぶせるわよ」
 あ……。
 そ、そうだったのか……。
「阿弥陀如来で上手に逃げたけど、ほっといたら、あのふたり、文平のご両親を殺す所だったのよ」
「いや、確かに、そうだけど……、でも……」
「文平一人が棄権したから、天使も悪魔も文平に構ってくるわよ。あの常識の無さで」
「ま、間違ってる事を適当にすます事なんかできないよっ!」
「文平はいっつもそうっ、世界の中で自分一人が正しいって顔で強情を張りまくるのよ。納得出来なければ梃子でも動かないよね」
「わ、悪いかよっ!」
「融通が利かないにもほどがあるわよ。どこの江戸っ子の頑固親父なの?」
「し、死んだじいちゃんが、男は自分を曲げるなって……」
「いいじゃないの、みんな適当に誤魔化して生きてるのよ、なんで、文平ばっかり強情はって損したがるのよ?」
「そ、そんな考え方は間違ってる!! 適当に自分を騙すような生き方は僕は嫌いだっ!」
「ええ、死んでも怪我しても、文平は正しくて本望でしょうよ、だけどね、相手は馬鹿の上にもの凄い力を持った異次元生物なのよ、 文平の責任でクラスの誰かが殺されたり、家族が死んだりしたら、責任取れるの?」
「と、とれない……。だ、だけど、間違ってないのに、説を曲げるだなんて」
「餓鬼」
「餓鬼とはなんだーっ!!」
「いっつもそう、高橋先生と揉めた時も一歩も引かないで、結局先生が引いた形になったけど、そのあと憎まれてるでしょ」
「あ、あれは先生が理不尽な事をするから」
「先生なんだから立場的に、非を認めます、ごめんなさい、って言えないでしょ、そんな事も解らないの?」
「わ、解るけど、駄目だっ!! 自分が間違ってないのに、相手を思って引くなんて出来ないっ!! それが誰であろうとでもっ!!」
「ヨブなんだわ」
「な、何だよ」
「神様は信じてないけど、自分の中の絶対の正しさがあって、それを死守するんだわ。文平はやっぱりヨブなのよ」
 僕は奥歯を噛みしめた。
 胡桃の言うとおりだと、自分でも解っていた。
「クラスの為に犠牲になってちょうだい。ヨブみたいに」
「ふ、ふさけるなっ!」
「絶対、犠牲になるわ、だって、文平は馬鹿だから」
「胡桃っ!! おまえっ!!」
「じゃあ、今すぐどっちかを選びなさいよっ!! レビィかガルガかっ!」
「そ、それは……」
「あなたの中の正しさを曲げられないからできないわよね」
 僕は唇を噛んだ。
 言い返せなかった。
「あの子達は触れてなかったけど、ヨブ記には、ヨブを心配して、色々説教してあげた三人の友人がいたの。彼ら、どうなったと思う?」
「え? なんかあったのか?」
「神様の罰があたったそうよ」
「な、なんでっ!?」
「しらないわよ、聖書の神様のやることなんて」
「ヨブが財産二倍になって幸せに暮らしたのに、親切な友人は罰を受けたのかっ!!」
「せいぜい気をつけてね。ヨブ君」
 胡桃はすたすたと教室の方に歩いて行った。
 僕は水飲み場で棒のように立ちすくんでいた。
 そりゃないぜ、神様……。

6

「一緒に帰ろうぜ、よしだ!」
「えー、吉田君は、私と帰るんだよう~~」
 僕は天使と悪魔に引っ張りだこであった。
 どうしてこんなことに……。
 目線で助けを呼んだが、みんな目を逸らして帰って行ってしまう。
 だれか、助けてー。
 だれも助けてくれなかった。
 結局、何が楽しいのかわきわきしている悪魔と天使と一緒に昇降口へ降りて行った。
「今日は楽しかったよう~~」
 レビアタンが可愛いピンク色の靴に履き替えながらそう言った。
「うん、初めてだったけど、学校はいいな」
 ガルガリンがスニーカーの踵に指をつっこんで、タンタンと足を押し込んでいた。
 僕はゲンナリして肩を落とし、のろのろと靴を履き替えた。
「お前達はどこに住んでるの?」
「吉富町!」
「上増町の教会で下宿してるよ」
 僕の家への通り道だった。
 僕らは連れだって学校を出た。
 凄く急勾配の坂道が、駅の方へ下っている。
 遠くに青い海が見える。
「凄い坂」
「急勾配だ、車輪で下りたら気持ちよさそうだよ」
「わあ、今度乗せてー」
「だーめ、悪魔は乗輪禁止、よしだだったらいいよ」
「遠慮します」
 なんかあの車輪は超一輪車な感じで怖い。
 長い坂を三人で下る。
 初夏の日差しが暑い、セミがミンミン鳴いていた。
「私、吉田君好きだよ」
 いきなりレビアタンがポツリと言った。
「そ、そうかよ」
「いきなり誘惑だ、悪魔は卑劣卑劣ー」
「そんなんじゃないよう、吉田君はなんか凄いよ、遠慮がないよ、私、この次元にきて初めて怒られた」
 ガルガリンが笑った。
「うん、ボクも驚いた、座天使を怒鳴りつけるとは! と愕然としたよ」
「さーせん」
「びっくりしたけど、嬉しかったんだ。なんか、本当に中学生になれたんだなあって、思った」
「別に、深い考えは無い」
「そこが凄いよな、ボクは感心したよ」
 これは、あれだ、誉めて感心を惹こうというテクニックだね。
 レビアタンは前へ出てきて、僕の両手をきゅっと握って、目をじっと見つめた。
「どっちを選んでも良いけど、その後もずっとお友達で居てくれる?」
「あ、その、まあ、いいよ」
 ガルガリンがボクの肩を掴んで引き寄せ、耳に顔を寄せた。
「ボクも、ずっと友だちで居たい。駄目かな?」
 なんかガルガリンはパイナップルみたいな匂いがして、これが天使の匂いか! と、思ったのだが、片手にパイナップルジュースのブリックパックがあって、匂いの元が解った。
「いいよ、べつに」
 天使と悪魔は、満面の笑みを浮かべた。
 なんか、胸がきゅっとつかまれたかんじで、こ、こいつらは可愛いかもしれないとか思ったりしたりしたが、そう思ったら負けだとかなんだかそんな思いも浮かんできて、僕はうがうがと暴れ、二人との肉体的接触を断った。

 坂を下りると、右手に大きな教会があって、ガルガリンはそちらの方へ歩いていった。
「じゃあ、また明日ね、よしだー! レビィも!」
 大きく手をふってガルガリンは駆け去った、
 教会の庭には、箒を持ったお婆さんのシスターが居て、ガルガリンが走ってガバッと抱きつくと目を丸くして笑った。
 直截な感情表現するやつだよなあ。

 レビアタンと商店街を一緒に歩いた。
「この国はおもしろいよね~~」
「そうか?」
「いろいろ旅行して、私大好きになったよ。綺麗な所一杯だったよ」
「国費で遊べて良いよなあ」
「うふふ、良いでしょ~~。あ、着いたー、ここにホームステイしてるの~~」
 そう言って、レビアタンが指さしたのは、でっかいお屋敷だった。
 中から黒塗りの高級乗用車が出てきて、ドアが開き、黒い着物のおじいさんが出てきた。
「やあ、レビちゃん、お帰りかい」
「おじいさま、ただいま帰りました~~」
 ぺこりんとレビアタンが頭を下げた。
「おでかけですか? おじいさま」
「うむ、赤坂でちょっと人とあうのじゃ、おや、もうボーイフレンドを連れてきおったかい?」
「吉田君です、クラスメイトですよ~~」
「レビちゃんと仲良くしてやっておくれ」
 お爺さんは笑って、高級車に乗り込み、行ってしまった。
「おじいちゃんは政治家さん?」
「右翼って職業?」
 僕の顔から血の気がみるみる引いていったのが解った。
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by sakananovel | 2007-11-26 02:35 | 天使と悪魔の円舞

円舞楽屋裏【1】 出演悪魔天使仏様裏話

天使と悪魔の円舞は、実は何にも構想を立てて居ないのでありますな。
いつものように、でっち上げで進んでいます。

レビアタンを出してから、ネットで調べてみたら、意外に変わり種の悪魔だと解ったりしたですよ。
ベヒモスと一緒に創世の時代に作られた怪物で、陸はベヒモス、海はレビアタンという縄張りになってるらしいです。
で、旧約聖書では別に悪魔ってわけではなくて、でっかい動物らしい。
悪魔になったのは中世の暇な坊さんが、悪魔学とかを研究というか、でっち上げした時についた属性で、言ってみれば、「僕の考えた凄い悪魔」みたいな、中世の厨二設定だったりするわけですな。

ちなみにレビアタンを出したのは「レビアたん」という感じで、流行の萌え萌え少女っぽい語感だから、という理由だけだったり。大きくなると、きっと「リバイアさん」にクラスチェンジするのでしょう。

で、レビアタンを調べていたら、ヨブ記が出てきて、読んでみたら、変な話で面白かったので採用してみました。
ヨブのおっちゃんは、なんか江戸っ子っぽくて好きですね(^^)
吉田君には、ちょっとだけヨブ属性をもたせると、神と悪魔と人間みたいな、テーマがでてきそうな。

ガルガリンは、相手の天使、あんまりすれてないのーと、考えまして、四大のミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルは外そうと、まあ、神格から言うと、レビアタンの相手だから四大でも良いんですが、ちょっと落とそうと、で天使の記事を読んでいたら、座天使(第三位)の異名でガルガリンというのがありました。これは「車輪」と「瞳」という二つの意味を持つ単語らしいのですが、意味とかじゃなくて「ガルガりん」と萌えっぽい語感だったからですね。

浄土真宗を出したのは、たんにうちが浄土真宗だったからで、他意はありませぬ。
というか、南無阿弥陀仏を唱えれば悪人とて極楽往生という、ゆるい感じが好きですなあ。
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by sakananovel | 2007-11-24 00:55 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【4】 阿弥陀仏


 そう、阿弥陀仏阿弥陀仏、南無阿弥陀仏だ。
 浄土真宗は鎌倉時代初期、法然の弟子親鸞さまが設立した、わりと新しい仏教で、他力本願、南無阿弥陀仏と唱えれば悪人だって極楽往生間違い無しの、ありがたい宗派だ。
 なお、真宗の一派は一向宗と呼ばれ、戦国時代には織田信長を大いにくるしめた本願寺勢として大活躍した。
 そんな素晴らしい宗派を両親が信心しているのを、危ないところで僕は思い出したのだった。

 僕が阿弥陀様を信仰してると言っても、まあ、法事にお坊さんのお経聞いて、両足を痺れさせて困る程度なんだけど。
 信仰の厚い義人に不幸をばらまいたりするような西洋の神様よりは百倍ましである。
 僕は突然回心し、阿弥陀に帰依し、一心不乱に心の中で南無阿弥陀仏を唱えたのであった。

「なんだよー、異教徒なのかー」
「じゃあ、賭けにはならないわね~。吉田君のご両親をぶっ殺そうと思ったのに~」
 ぶっそうな事言うな。常識のない悪魔っ子め。

「ああ、そうだ」
「なになに~?」
「こいつら犬にも劣る異教徒なんだからさ。絶滅させちゃおう」
「ああ、それいいかも~」
 クラス全員の顔色が真っ白に変化した。
「ふざけんなてめえらっ!! 神を信じる奴らだけがエライのかよっ!!」
「神を信じるのは、人間の義務だよ?」
 ガルガリンが、不思議そうな顔で僕を見た。
「神様信じてない人はだめだよう~」
「なんで、レビィは悪魔の癖に神様の肩もつんだよ、異教徒は味方だろっ!」
「えー、ちがうよう、悪魔の本当の仕事は、神への信仰が厚い人を堕落させる事なんだよー。異教徒はまあ、居てもいいかなってくらい」
「天使は異教徒を許さないっ!! 殲滅だっ!!」
 ガルガリンの車輪が回転数を上げ、唸りを上げた。
 まずい、まずい、天使様に殲滅されちゃうっ!
「人間界の32.9%がキリスト教徒。19.9%がイスラム教徒。13.3%がヒンズー教徒。儒教・道教・中国民間信仰が6.4%。仏教は5.9%ですよ。キリスト教系とイスラム系を合わせても53%、異教徒を殲滅すると、世界の人口が半分になりますよ」
 芳城がナイスつっこみをしてくれた。
「そ、そんなに神を信仰していない異教徒が居るのかっ!」
 ガルガリンが天を仰ぎ、遠い目をして言った。
「キリスト教とイスラム教は混ぜていいのか?」
「ええ、一応根っこが同じ宗教で、信仰してる神様一緒だし、旧約聖書も読むのよ」
 アラー様とエホバ様は同一人物だったのか!
 あと、仏教は結構マイナーな宗教なんだなあ。

「あ、良いこと思いつきました~」
 レビアタンが手をぱたぱた打ち合わせて嬉しそうに言った。
「異教徒なのはしょうがないので、吉田君が、私とガルガちゃんのどっちが好きかで決めるの」
「それは……、簡単でいいや。勝手に人間を殲滅するとラファエル教官が怒りそうだし」
 なんだそれは……。
「女性として……ですか?」
 芳城が確認した。
「うん、ガルガちゃんと私と、どっちが女性として好きかで決めるの」
「ふん、女性としても、このガルガリンの美しさ、心根の綺麗さで、勝負は解っているさ」
「えー、吉田くんは、私の事好きだよ。さっきキスしたいとか言ったし」
 なんだか、クラス中の白い目が僕に集中している。
 天使と悪魔はニマニマしながら、僕の前で立っていた。
 僕はなんだかすごくゲンナリした気分で肩を落とした。

 僕はすたすたと歩き、車輪の上のガルガリンの手を掴んで引っぱり下ろした。
「うっ」
「僕はガルガリンが好きだ!」
 うおおおと、クラス中が動揺し、ガルガリンの頬がぱあっと赤くなり、レビアタンの目が泣きそうに潤んだ。
「や、やっぱりね、う、うれしくなんかないぞ、ほんとに……」
 僕はすたすたと、レビアタンの前へ歩いていき、なんかラブリーな爪がついた手を取った。
「僕はレビアタンが好きだ!」
 ふにゃっとレビアタンの顔がほころび、満面の笑顔になって、赤面した。
「うわわー、うれしい……。って、どっちがどうすきなの~~!」
「どっちも好きだ、以上!」
「どっちか一人だっ!!」
「この、浮気者~~!」
 ガルガリンに胸ぐらをつかまれ、レビアタンが僕の腕を引っぱった。
「そんなものは、僕は決めないっ!!」
 わあわあ揉めているとチャイムがなって、五時間目の品川先生がやってきて、騒ぎはお開きとなった。
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by sakananovel | 2007-11-24 00:34 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【3】 ヨブ

天使と悪魔の円舞【3】 ヨブ

 どっちと言われてはっきり決められれば良いのだが、悪いことを考えただけで稲妻が落ちてくるようなクラスも、好き放題な事をして出鱈目になるクラスも、どっちも嫌だった。
「どっちも嫌だ、棄権!」
「人生に棄権なんてないよっ!」
「大丈夫よ、吉田君、私にまかせておいて、痛くしないから~」
「どっちも絶対に嫌だっ!」
「強情なやつめ、神はお怒りだよ」
「もー、はっきりしてくれない人、私きらい~」
「まるで、ヨブみたいだよ」
「ああ、ヨブさんみたいねえ~」
「あ、そうか……」
 ガルガリンが手をパーンと叩いた。
「解った!! 吉田はヨブなんだっ!!」
「あー、そうなんだー、なるほどー」
「ヨブってなんだよ……」
「吉田の下の名前は?」
「文平」
「ヨしだ ブんぺい……。やっぱりヨブだっ!! 神は無駄な事をなされないっ!」
「わああ、すごいよう、かみさま」
 なんだその、空条 承太郎や東方 仗助をジョジョと呼ぶような無理矢理なこじつけはっ!
「ちょっと待て、偶然だよ偶然っ! 大体、文平ってのは、お父さんが三国武将からつけた名前なんだよ」
「吉田の親父、文聘が好きなのか、渋い」
斎藤が感極まったようにつぶやいた。
「文聘といえば、無双とかには無縁だけど、シミュレーション系だとなにげに使えるいぶし銀のような武将だよ」
神凪がつぶやく。
「吉田の親父、イカスぜ」
斎藤が憧れたような声をだした。
 お父さんの三国武将の趣味の人気に、僕はすこし嫉妬した。
「だまれー、ボク座天使ガルガリンが認定する、吉田はヨブ! これで決まりだ!!」
「だから、ヨブってなんだよ」
「じゃあ、ガルガちゃんと、私で、賭けをすれば良いのね」
「うんうん、昔、神とサタンがやった賭けをここで再現しなさいって、いう事なんだよ!」
「ヨブってなんだーーっ!!」

 ふと、芳城胡桃の方をみると、口パクで『駄目、逃げて』と言っていて、胸元に小さく指でバッテンを作っていた。
 あの、物に動じない、鋼鉄委員長がヤバイというのだから、ヨブというのは誠にヤバイようだ。

「ヨブを知らないの? 不勉強だなあ、聖書は読んでるでしょ」
「読んだことないよ」
「「ええーーーっ!!」」
 天使と悪魔が声を揃えて驚愕した。
「聖書を読んだことがない人間がいるだなんて」
「嘘よねえ~」
「よまないよ普通」
「……、せ、聖書を読んだことがある人手を上げてっ!」
 ガルガリンの呼びかけに、メガネグループを中心に五、六人が手を上げた。
「嘘でしょっ!! こんだけっ!! なんて野蛮な国なんだ、ここはっ!!}
「神様が人間をお作りになされた恩も忘れるだなんてっ!! あ、でも、不信心者は悪魔の味方よ。やった~。この国もーらいっ」
「レビィはは神様の味方なのか、敵なのかどっちだ」
「私も、神様に作られたんだよ、聖書でたくさん誉めてくれてるよう、凄い強いとか、おっきいとか」
「悪魔なのに?」
「うんっ! 神様に愛されてる悪魔なの」
 それはまた変な存在だな。
「悪魔は天使から転職した人多いからなあ。神様好きな悪魔さんたちも多いよ」
「悪魔は職業かよっ!」
「魔界は派閥が多いんだよー。ルシファーさんの天使派閥に、バールさんのメソポタミア派閥とか」
「レビアタンは創世の怪物派閥だよ~」
「魔界のお家事情に興味はないよ」
 それよりも、ヨブだ!
「ヨブってなんだよ」
「昔、すごく偉いヨブって旦那がいたんだ、神様を固く信仰していて、大金持ちで、一杯子供がいて、善人で幸せだったんだよ」
「でねー、サタン様がつっこんだの。ヨブは善人だからみんなに好かれて凄く幸運でお金持ちだったから、神様を信仰してるんじゃないんですかって。不幸になったら神様呪っちゃたりするでしょうよって」
 そりゃそうだよなあ。幸せだから、神様ありがとうって信仰するんだよなあ。
「でね、神様は賭けをしたんだよ。サタンにヨブを不幸のどん底に落としてみろって、ヨブはそれでも信仰し続けるって、神様は自信があったんだよ」
 え、ちょっとまって……。
 なんだか背中に凄く嫌な汗が出てきた。
「サタン様はヨブの妻と子供を一夜にして殺したんです。で、ヨブの全財産を一夜にしてとりあげちゃいました」
 ちょっとまてー、なんですか、その不条理ギャグは。
「それでもね、ヨブは信仰を失わなかったんだよ。『おいらは裸で生まれてきたから、裸で帰っていくよ。与えたり奪ったりするのは神様の仕事だからね』ってね」
「というわけで、サタン様は掛けに負けて悔しいので、まあ、皮膚病をヨブさんの全身に掛けたりして八つ当たりしました」
「さ、さらに皮膚病ですかっ!」
「んで、仲の良い友人が『あんた、神様に悪いことしたからむくいを受けたんだよ、悔い改めなさい』って言われたんだよ。でもヨブはそんな目に合ういわれが無いから『やったことが無い事を言われて、悔い改められるかい』とか言ってへそを曲げたんだね」
「ここらへんで、サタン様の攻撃がやっと効いてきたの。やっぱ、事件よりも人に誤解される方がきつかったみたいねー。お金が無くなるとか、子供達が死んじゃうとかは乗り越えられても、皮膚病と人の無理解で、ヨブさんは切れちゃったの」
「ヨブは、神様を呪い、生まれたことを呪い、親しい友人に毒はいたりして、悪魔に屈服したんだなあ」
 そりゃそうだよなあ。
 酷いよ神様。
「ついにヨブさんは、神様を呪いだして、サタン様はしめしめです。でー、酷いんだよ、そのあと神様が直接降臨して、ヨブに説教しちゃったの。ルール違反だと思わない?」
「いいんだよ、神様のやることは絶対なんだ。ヨブは願ったんだ、『神様、おいらの言葉を聞いてくれ、聞いたらたぶん怒って、おいらを殺すかもしれない、でも、聞いてくれ』ってね。で、神様は嵐の中から現れて『おまえは俺に作られた物なんだから、うだうだ言うな』とか言ったんだな」
「世界の事とか、レビアタンの事とか言って、神様はでっかいんだ、だから人間は小さいんだと、説教したら、ヨブさん納得して、悔い改めちゃったの。サタン様は直接説教は狡いよって、がっくりしてたよ」
「その後、ヨブは財産が二倍になり、また子供も生まれ、ひ孫の代まで長生きして、幸福に暮らしました。めでたしめでたし」
「めでたしめでたし」
 なにがめでたいのだ、その不条理ギャグは……。
 神様が横車を押して、善人を酷い目に合わせただけじゃん!

「で、このクラスのヨブは、よしだだっ!!」
 ピシリとガルガリンが車輪の上から僕を指さした。
「じゃあー、ルールは……。えーと吉田くんが私の起こす不幸にあって、神への信仰を失ったら、悪魔の勝ちね」
「うん、さすがに、神様の直接介入は無しで、不幸に負けず、神様を信じられたら、天使の勝ちだ」
「ふ、ふざけるなー」
「大丈夫だ、よしだ、神への信仰さえあれば大丈夫!! 神の栄光は世の隅々まで満たされているんだ」
「吉田くんの銀行口座を閉鎖して、あと、お母さんお父さんを殺しちゃいましょう。あと、皮膚病ね~」
 な、なんで、レビアタンは悪魔的な行為がそんなに嬉しそうなんだ。悪魔だからかっ!
「や、やめてー、だ、だめだそんなの……」
「よしだ、これは神の試練なんだ。ボクがついてるから、安心して」
 ガルガリンが居てもちっとも、安心できないよ。
 な、なんとかして、このイカレタ賭けをやめさせないと。お母さんとお父さんと、僕のお年玉四年分の貯金が。
「あ」
 思いついた。
 抜け道があった。
「この賭けは成立しない」
「な、なんでだよ」
「えー、駄目なの?」
「僕は神様を信じてないから」
「いやったー、悪魔の不戦勝ー!!」
「だ、だめだよ、そんなのっ! 神の御子たる人間が、神を愛してないなんて信じられない、賭けの種になりたくないからって、嘘つくなようっ!!」
 賭けの種なんかなりたくないが、でも、そうではない。

「僕が信じてるのは、阿弥陀如来だっ!!!」

「「なにーっ!!!」」
「アミダニョライって誰??」
「異教徒? 異教徒?」
「浄土真宗のっ!! 仏さまだっ!!!」
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by sakananovel | 2007-11-23 03:45 | 天使と悪魔の円舞

ガルガリン

まあ、座天使自体をガルガリンと言うらしいので、名前みたいに使うのは難なのですが。
ガルガであります。

ボクっ子という以外の属性がまだついてませんな。
スパッツ履いてるので元気属性っぽいですが。

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by sakananovel | 2007-11-22 17:10 | 天使と悪魔の円舞

天使と悪魔の円舞【2】 なれそめ

天使と悪魔の円舞【2】 なれそめ



 小学校の頃から強情者で、色々と損をしてきた。
 僕という人間は、喧嘩も弱くて、成績も良くないのだが、なんというか、心の底にもやもやっとした物があると、言わなくては我慢が出来ない。もやもやを口にだすと、だんだんとエキサイトしてきて、ついには切れる、キレながらつっこむのが悪い癖で、よく女子を泣かせたりしたものだった。
 レビアタンとガルガリンが僕のクラスに編入されたときは、異次元生物とは関わるまいと固く思い、また、お母さんとお父さんにも、絶対にかかわっては駄目と言われていた。だが、運命の悪戯か、レビアタンが僕の席の隣りに決まってしまった。
 おすおすと挨拶をする魔物少女にぶっきらぼうな返事を返しつつ、そのすべすべな頬や、くりっとした目を見て、うわあとか感動していたのだった。悪魔の娘の、美しさ、可愛さ、可憐さに僕の心は動揺していたのだが、元より級友以上の付き合いなどするつもりは微塵もなかった。
 無かったのだが、なにしろ隣の席である。
「よ、吉田君、教科書みせてくれる?」
 と、僕の返事を聞く前に、レビアタンはガタガタと机を動かし、僕の席と合体させながら言った。
「え、ああ、いいけど」
 向こう側の斎藤の方に行けよと思ったのだが、斎藤は斎藤で向こうのガルガリンに机を引っぱられ、ウムを言わさず教科書を提供させられていた。
 レビアタンの近くに寄ると、新品のセーラー服で包んだその体から、ふわりと若布の匂いがした。
「朝食は若布のみそ汁?」
「え? ち、ちがうよ。私、海竜だから、潮の匂いかな……?」
 確かによく嗅ぐと、ふわりと香ってくるのは、若布の匂いというよりは、磯の匂いだった。
 磯の匂いは、焼けた砂浜とラムネの味、水平線から打ち寄せる白い波の記憶を引き出してきた。
 レビアタンの瞳は黒かと思ったら、深海のような深い蒼で、見つめていると吸い込まれそうな色だった。
 思わずじっと見つめていると、レビアタンの頬が赤くなり、うるうるっと瞳が潤んだ。彼女はふんわりと眼を閉じ、首をかしげた。思わず僕はレビアタンの華奢な肩を抱きしめようとして、抱きしめようとして、大全力のブレーキを掛けて止めた。
 止めたともっ!
 レビアタンはぱちくりと眼を開き、ちょっと口を尖らせて
「キスしないの?」
 と、たわけた事を聞いてきた。
「しないっ」
「キスしたくないの?」
「し、したい……。だ、だが断るっ!」
「ど、どうして?」
「僕は、僕は、一塊の紳士だからだっ!」
 レビアタンはぷっと吹き出し、口を手で押さえて、くつくつと笑った。
「吉田くんて面白い~」
 うるせえやい。
「そこ、うるさいですよ」
 小森屋先生に怒られたのである。
 これが、僕とレビアタンの初接触であったのだ。



 さて、その日の昼休みであった。
 僕が仲の良い、斎藤とか神凪とかと一緒にもそもそと弁当を食べていたら、ガルガリンがつかつかと黒板の方へ歩いていった。
 なにすんのかなと思っていると、ガルガリンは教卓に取り付いて
「この、二年B組は天使が番を張るよっ!」
 と宣言した。
 このクラスの番長は誰だったかなあと、一瞬困惑したが、とりあえずそんな前近代的な役職は決めていなかったのに思いいたった。
 クラスで一番不良っぽいのは石川だが、番長というほどではない。
「なんだよ、天使の癖に番長になるのか?」
 その石川が焼きそばパンを囓りながらつぶやいた。
「文句あるなら、神の御名において粉砕するっ!!」
 ギャーンととてつもない音を立てて、ガルガリンの背後に車輪のような、歯車のような、なんか鋼鉄で出来た高速回転する円盤が現れた。
「と、特に、い、異議はありません……」
 石川はへたれ声をだして言った。
「異議あーり、はいはーい」
 リバイアサンが立ち上がって手を上げた。
「クラスの番をはるのは悪魔が良いと思いまーす」
「なによ、神の御心に逆らおうというの」
 きゅおぉぉおんと、恫喝するかのごとく車輪の回転数が上がった。
「悪魔が人間界を支配するんだから、このクラスも私が番をはるのよー」
 と言ったリバイアサンの体の回りに半透明な物が出現し、実体化すると、それは彼女を包み込んだ。
 怪獣の縫いぐるみ。みたいな、なんというか、超ラブリーな格好にリバイアサンは変化した。
 怪獣の喉のあたりにリバイアサンの顔が出ていた。
「統治戦争に勝つのは天使の方だから、番を張るのは天使でいいのっ!」
「なによー、前哨戦をするー?」
 きゃっと女子の声が上がり、下を見ると、大量の水が教室の床をすべって来た。
 ほのかに潮の匂いがして、僕は慌てて足を上げた。
「おもしろいじゃないっ!」
 ガルガリンが高速回転する車輪の上に飛び乗った。
 その両足は車輪からほんの少し浮いていて、足下でギュンギュン音を立てて車輪が回っていた。
 車輪の巻き起こす風にガルガリンのスカートがまくれ上がったが、下に履いていたのは、おパンツではなくて、黒いスパッツで、男子全員が残念そうな溜息をついた。

「喧嘩は良くないと思いますっ!!」
 クラス委員長の芳城が立ち上がって言った。
「そ、そうなの?」
「だめなのー?」
 超常少女二人は、芳城の方を見て、そうつぶやいた。
 車輪の回転数が落ち、海水が引いていった。僕の足元に小さいヒトデが残されていた。
「クラスの問題がある時は、多数決で決めるのが民主政治です。それぞれ自分が番を張ったら、クラスにどんな良いことがあるか演説して、自分側に生徒を集めたら良いと思いますっ」
 よ、芳城……。
 番長はクラスの委員役職じゃないんだが……。
 芳城は怪獣モードのリバイアサンの手を引いて、教室の後ろに連れて行った。着ぐるみをきると皆ペンギンみたいな歩き方になるのはなぜなんだろう。
「クラスの皆さんは両候補の演説をよく聴いて、番長にふさわしいと思う候補の元に移動してください。より多くの生徒の支持を受けた候補がクラスの番長になります」
 とりあえず、クラス番長候補の座天使ガルガリンの演説から始まった。
「天使は正義なんだ。万軍の主、神の栄光に包まれた正義に共感を覚えた勇気ある生徒はボクの元へ! とりあえず悪は滅ぼす、悪いことをちょっとでも考えたら神通力で察知し、天を砕く雷によって天罰! 悪のない、清浄で気品あるクラスをボクは約束するよ!」
 それは恐怖政治ぢゃないのか……。
 それでも、クラスのインテリ層が動いた。ガルガリンの回りにメガネメガネメガネとクラスの成績上位者が芳城を除いて集まった。

 レビアタンに演説が移った。
「えーと、悪魔の方についてくれたら、私の、お、おっぱい見せます……」
 うおおおっ!! おっぱいっ!! とクラスの男子がどよめき赤面した。
 ガルガリンに付いた眼鏡男子のうち、顔を赤らめた何人かが歩み出そうとして、たたらを踏んだ。
「性的な公約は禁止します」
 芳城が冷たく言い切った。
「えー、そうなのー? えと、あのあの、私が番長になったら、その、悪いことをしても良いことにします。あの、人間さんは寿命がみじかくて虫みたいにすぐ死んじゃうので、欲望を我慢しちゃうのは、えと、精神によくありません。こう、悪いこと……、いえ、好きなこと、やりたいことを、思い切って自由にやれるクラスにしたいと思います、です」
 む、無政府状態にするつもりか、このクラスを。
 石川が立ち上がっって、レビアタンの方へ歩いた。馬鹿、不良、エロ男子、という感じの生徒がレビアタンの元に集った。

「ひのふの、ガルガリン候補の生徒が19人、レビアタン候補の生徒が20人ですね。私、芳城胡桃はガルガリン候補に付きます……」
 クラスの真ん中に居るのは、弁当箱を持った僕一人だった。
「ちょうど二十対二十です。吉田君がどっちに付くかで番長が決まります」
「ど、どっちも嫌だよ。恐怖政治と無政府状態のどっちかを選べと言われても困るよ」
 ごろごろと車輪を転がしてガルガリンが寄ってきた、怪獣縫いぐるみのレビアタンがペタペタとやって来た。
「ボクを選んでよ、よしだっ!」
「吉田くーん、私だよね私だよね」
「「どっち?!」」

つづく
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主人公の名前は吉田文平でありますな。
なんとなくメンタリティが「坊ちゃん」ぽくなるかも。
芳城胡桃委員長もキャラ立ちしそうな予感。
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by sakananovel | 2007-11-22 02:41 | 天使と悪魔の円舞